退職代行サービス会社が、弁護士法違反の疑いで警視庁の家宅捜査を受けたとの報道がありました。
退職代行サービス会社のサービス内容は、退職希望者に代わって勤務先に退職の意思表示を行い、勤務先からの回答を依頼者に返すことが基本ですが、単に伝言だけでなく交渉事が発生することが予測できます。例えば未払い賃金の支払い交渉や、年次有給休暇の取得交渉などです。退職代行サービス会社が報酬目的でこの交渉を直接行ったり、第三者にあっせんしたりすることは「非弁行為」として弁護士法で禁止されているものです。
似たようなケースが社会保険労務士業界でも起きています。
コロナ禍において盛んに行われた雇用調整助成金等の申請手続代行は、社会保険労務士の独占義務とされているところですが、社会保険労務士でないコンサル会社等が他人の求めに応じ、報酬を得て、助成金申請手続き代行を行うことは、社会保険労務士法で禁止されています。
また、 コンサル会社等が助成金申請を目的として請け負った業務について、社会保険労務士が名義を貸す行為や、コンサル会社等が請け負った業務を社会保険労務士に再委託する行為も禁止されています。
退職交渉や助成金の申請などの業務を、士業が直接ではなく、士業と依頼者の間に法律知識が不十分な者(紹介者)が入って行えば、士業は依頼者ではなく紹介者寄りの対応をしがちです。その結果、依頼者の権利が保護されず、不利益が生じる恐れがあることから、各士業には独占業務が定められ、あっせんを受けることを禁止されているのです。
退職代行サービスは今回の事件をきっかけに世間の注目を集め、法令遵守体制がより厳しく監視されます。急速に発展したサービスであり、会社ごとの特色が見いだせないまま伝言サービスに徹するだけでは、価格競争も激しくなり、淘汰される会社も出てくるでしょう。
退職代行サービスを利用することのデメリットは過去の記事(111.退職代行サービス利用にはデメリットもあります - 人事労務の「作法」)にも記載しましたが、今回の事件をきっかけに、利用者と企業人事の意識のずれはより大きくなる気がします。やはり、このようなサービスを利用しなくともコミュニケーションが図れる関係性を構築することが何よりでしょう。