近年、業績が好調な企業においても、大規模なリストラ、いわゆる「黒字リストラ」が行われています。ある大手電器メーカーでも、従業員数の5%にあたる1万人規模の人員削減を行うという報道もありました。民間の信用調査会社の調べによると、2024年に希望退職を募集した企業の約6割が、直近で黒字決算であったそうです。
かつてのリストラといえば、90年代後半以降、赤字企業が最後の手段として生き残りをかけて人員削減を行うものでした。しかし、特に近年の黒字リストラはそれとは違い、好業績の中、新たな成長分野への経営資源の再配分や、組織の新陳代謝のための構造改革を行うものです。
人員削減のターゲットとなりやすいのは、成長分野への転換など環境変化に対応できない社員、人件費に見合う成果が出せない社員、コミュニケーション不足など組織との関係性が希薄な社員などで、中高年齢層だけとは限りません。これからは成長分野に必要な専門知識を身に付け、主体的に自ら学び続ける意欲を持った高付加価値な人材が求められる時代で、そのような人材を確保、育成する目的で黒字リストラが行われているのです。
ところで、成長分野への人材の流動化を目指しての黒字リストラで思い出されるのが、昨年の自民党総裁選で話題になった解雇規制の緩和の議論です。昨年は目的が不明確なまま議論の的となり、途中でトーンダウンした経緯もあり、今年の総裁選には一切話題になりませんでしたが、このまま黒字リストラだけがフォーカスされるのは危険です。
というのは、黒字リストラはあくまでも希望退職の募集のかたちで実施されますが、人員削減ありきで事が進むと、不当な解雇が横行する予感がします。黒字リストラは整理解雇の4要件には該当し難いからです。
成長分野への人材流動性を高めることは必要ですが、その手段が解雇によるものではなく、労働者の自由な意思によるべきものであることは昨年の記事にも記載しました。(076.解雇規制緩和は実現するか - 人事労務の「作法」)
黒字リストラが有効に機能するためにも、昨年の記事に記載した通り、新しい政権には大学教育の見直し、職業訓練の充実、セイフティネットの確保、社会保障の拡充に至るトータルでの働く環境整備に取り組んでもらいたいものです。