5月22日に、東京地裁で退職日をめぐっての判決が出ました。
この事件は、労働者が約1ヶ月半後の退職を申し出ていたところ、会社はそれよりも1ヶ月以上前の日を退職日と指定して退職させた案件です。これに対して裁判所は、退職日の前倒しは労働者の真意の同意がなかったとして実質的には解雇に該当するとし、解雇予告手当の支払いを命じたものです。退職にあたっては、両者で守秘義務に関する誓約書を交わし、会社が指定する日を退職日とする条項もあり、労働者が署名、捺印していたにもかかわらず、このような判決が出たのです。
退職後の再就職の有無等については不明ですが、退職日の前倒しによる賃金損失の不利益が大きいと判断されたのでしょう。
退職日の会社側の事情による前倒しについては、過去の記事(047.月末前日退職の罠 - 人事労務の「作法」)にも記載しています。この記事では、今回の事件とは違い、会社負担の社会保険料を節約するために月末前日退職を指定することの危険性について論じていますが、本質は同じ事です。
今回の判決から明らかなことは、誓約書などで退職日を会社が指定し、労働者が署名していても、それが真意に基づき適正な手続きを経たものでなければ、後々、解雇を主張され、それが裁判で認められる可能性があるということです。
筆者の経験では、労働者からとある月の28日付での退職申し出があり、直感的に事情が思い浮かんだので、話を聞いたことがあります。思った通りその労働者の話では、この28日は金曜日で、29日、30日は土日で休業日のため、最終勤務日の28日金曜日付での退職を申し出たとのことでした。
月給制の労働者であり、28日付退職でも30日付退職でも当月分の賃金支給額に影響はないのですが、社会保険の仕組みを説明し、結局、この労働者には退職希望日を30日付に変更してもらったことがあります。
労働者からの申し出をそのまま受け入れてもよいのですが、事情が想定できる以上は退職する労働者にも配慮したいものです。決して、月末日付退職の申し出を、社会保険料を節約するために、月末前日退職に変更を勧めることのないようにしてください。