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113.在職老齢年金制度改正で「あんこが詰まったあんパン」に

2025年の年金法改正案が与野党3党合意で国会に提出されました。

いくつかの改正内容のうち、筆者が注目しているのは在職老齢年金の支給停止基準の引き上げです。

在職老齢年金制度とは、60歳以上で働く高齢者の給与と年金の合計額が一定額(2025年度は51万円)を超えた場合に、超えた額の半分の額の年金が支給停止となる仕組みのことです。例えば、月額40万円の給与で働く人の年金月額が15万円であった場合、合計の55万円は51万円を4万円超えることから、半分の2万円の年金が支給停止となり、年金月額は13万円になるというものです。

この支給停止基準が、今回の改正では給与と年金の合計が62万円まで大きく引き上げられます。上の例では、年金は支給停止されることなく全額受給できることになります。

従来の基準では、「働き損」を感じて労働時間を減らすなどの調整を行っていた人も、年金が支給停止され難くなることで、高齢者の就労意欲が向上します。このことは人手不足の解消に貢献することにもなります。また、高齢者の手取り収入が増えることで生活水準が向上し、更に長く働くことで年金財政を支える期間も延びます。

一方で、年金支給額が増えることで、将来の年金財政への影響は起きるでしょう。生産年齢人口が減少することが避けられないと、将来的には現役世代の保険料が増加したり、給付水準が引き下げられたりといったしわ寄せは起きる可能性はあります。世代間の不公平感が拡大するでしょう。

少しでも財源を確保する対策として、被保険者範囲の拡大や、標準報酬月額の上限引き上げも改正案に盛り込まれていますが、大きな効果は見込めません。

また、今回は付則にとどまりましたが、基礎年金の底上げと厚生年金の積立金のその財源への充当(所謂「あんこのないあんパン」問題)も将来争点になってくるでしょう。

結局は、財源の問題が解決しない限りは、決して「100年安心」とは言えないですが、今後ますます高齢化が進む中で、高齢者が意欲的に働くことができる環境を労働行政と一体となって整えることで、健康寿命が延び、医療や介護の予算を減らすことができれば、「あんこが詰まったあんパン」を食べることができるかもしれません。

 

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