人事労務の「作法」

企業の人事労務課題を使用者側の立場で解決します

104.地域格差はあっていいのかも

ある調査では、退職を考えるきっかけとなる出来事の最上位は「望まない勤務地への転勤」だったそうです。

望まない職種や部署、望まない上司の元への異動や、役職の降格以上に転勤が退職のきっかけとなるというのは興味深い結果です。もっとも、転勤には職種や部署の異動や上司の変更、更には降格を含む場合もありますので、すべての事情を包括しているのかもしれません。

一昔前までは、全国展開している企業では転勤が当たり前のようにありました。転勤はジョブローテーションの一環として必要な人事異動と捉えられていました。背景には、本社と地方事業所との格差を埋める目的もあります。

潮目が大きく変わったのはコロナ禍以降でしょう。リモートワークの普及で、その場所にいなくても普通に仕事ができる環境が整いました。また、2024年4月の労働基準法施行規則改正により、労働契約締結時には就業の場所とその変更の範囲を明示することが義務付けられ、転勤を希望しない社員が増える中、就業の場所の変更範囲について「全国の事業所」とは明示し難い状況です。

しかしそれでも、全国に拠点を持つ企業では、各事業所に最低限の人員を配置する必要があります。そのためには、転勤によって充足しなければならない場合もあります。

そこで、企業が行うべき対応策として、まず第一に就業規則で転勤命令を出す場合があることと、その命令に従わなければならないことを規定しておく必要があります。ただし、労働者の不利益が著しいなど、人事権の濫用として転勤命令が無効となる場合もありますので転勤の必要性判断や人選には注意が必要です。

次に、勤務地限定社員制度の活用です。その地域に生まれ育った人を積極的に採用することで、その地域の活性化にもつながります。また、転勤を希望しない社員がいる一方で、所縁がある地域などに転勤を希望する社員もいるでしょうから、このような人もタイミングが合えば活用できます。

かつては、転勤には本社と地方事業所との様々な格差を埋めるための人材交流の目的もありましたが、今やどこにいても情報格差は生じず、ある程度はその地域特有の格差が残っていた方が、その地域に根差した戦略を展開するうえで良いのかもしれません。

今後転勤はますます減ってくるのでしょう。

 

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