人事労務の「作法」

企業の人事労務課題を使用者側の立場で解決します

095.ジョブ型雇用は定着するのか

ジョブ型雇用の労働者に対して、労働者の同意のない配置転換は違法とする昨年4月の最高裁判決の差し戻し審において、この度大阪高裁は、職種変更の合意を得るための働きかけなど「尽くすべき手続きを取っていない」として、事業主側に88万円の損害賠償を命じる判決を出しました。

一審、二審においては、配置転換は解雇を避ける目的で行われたものであり、合理的な理由があるとして適法と判断されていたものが、一転して違法と判断された最高裁判決と、更には損害賠償を命じた今回の判決は、今後のジョブ型雇用の行方を占う大変意義のあるものだと思います。(056の記事を参照ください)

ジョブ型雇用は職務内容を限定して採用する雇用形態で、日本企業の慣例であった新卒一括採用を基本とするメンバーシップ型雇用と対比されてきました。ところが昨今、社会情勢の変化に伴い、ジョブ型雇用の関心が高まり、特にコロナ禍を経て、役割が明確で成果を重視したジョブ型雇用に切り替える企業も増えてきました。

しかし、今回の判決は、ジョブ型雇用の進展にブレーキをかけるものとなるかも知れません。

事業領域の再編等でジョブ型雇用の労働者の業務が廃止される場合、配置転換することについて労働者の同意を得なければなりません。労働者の同意が得られない場合は配置転換はできず、最終的には解雇せざるを得ませんが、整理解雇の4要件を充たしていなければなりません。

昨年4月の労働基準法施行規則改正で、労働条件明示の際には、従事する業務とその変更の範囲を明示することが義務付けられています。つまりは、今回のようなトラブルを避けるためには、入社時には職務内容を限定して採用したとしても、労働条件通知書には将来的な業務変更の範囲として、「会社が指定する業務」と記載することになるでしょう。

これはジョブ型雇用に該当するのか?

しかしよく考えると、決してジョブ型雇用が善で、メンバーシップ型雇用が悪ではないはずです。欧米のような厳密なジョブ型雇用は日本企業に馴染み難いと割り切ったうえで、専門人材の活用といったジョブ型雇用のメリットを活かしつつ、変化する社会情勢に適応するため、既存の人材を有効に活用できるメンバーシップ型雇用のメリットも取り入れたハイブリットな仕組みで良いと筆者は考えます。

 

人事・労務ランキング社会保険労務士ランキング

スポンサーリンク