人事労務の「作法」

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094.雇用保険法の改正はリスキリングのチャンス

2024年5月に成立した改正雇用保険法が順次施行されます。いくつかの改正点の中で注目すべきは、「教育訓練やリスキリング支援の充実」に関する改正です。

自己都合で退職した人が失業給付(基本手当)を受給する際、7日間の待機期間の後、従来は2ヶ月間の給付制限期間がありました。改正法では、2025年4月よりこの給付制限期間が1ヶ月に短縮されます。さらに、離職期間中や離職日前1年以内に雇用の安定や就職の促進に関する教育訓練を自ら受けた場合には、給付制限期間は解除されます。

企業側から見れば、この法改正により自己都合退職者が増えることを心配する声もあるようですが、むしろ日本社会全体にとっては、労働力の移転がしやすくなるための法改正であり、企業としてもリスキリングを積極的に後押ししたいところです。

そもそも今の転職市場では、転職エージェントや転職サイトに膨大な転職情報が集まり、転職希望者は仕事を続けながら転職活動を行っています。自己都合退職する人は既に転職先が決まっていて、失業給付を受けることなく勤務先を移転するのが一般的です。給付制限の緩和が自己都合退職の増加につながるわけではありません。

その他の改正では、昨年10月からは、教育訓練給付金の給付率の上限が受講費用の70%から80%に引き上げられています。

また、今年10月からは教育訓練休暇給付金が創設され、教育訓練のための無休の休暇を取得した場合に、基本手当に相当する給付が受けられる制度も始まります。

今回の法改正を利用して教育訓練を受ける人が増えることで、自己都合退職者が増加する可能性はあります。しかしそれは、人手不足が顕著な領域などへの労働力移転が活発になることを意味しますので、社会全体でみれば望ましいことです。

雇用保険法の存在意義は、労働需要よりも労働供給が大きかった一昔前には、雇用の安定のためのセーフティネットの役割が強かったですが、近年では労働需要が労働供給を上回り、労働市場を適性化するための調整弁の役割へと変化しています。

自己都合退職するかどうかは別として、今の企業で働き続ける場合でも、リスキリングにより新たな職業領域の知識を身に着けることは、労働者にとって大きなチャンスといえるでしょう。

 

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