人事労務の「作法」

企業の人事労務課題を使用者側の立場で解決します

093.初任給引き上げの影響

大企業を中心に、新卒の初任給を引き上げる動きが加速しています。

あるメガバンクでは、初任給を現行の25万5000円から2026年4月より30万円に引き上げるという報道がありました。引き上げ幅は18%です。大手アパレル会社でも、初任給を33万円に10%引き上げるという発表がされています。

どの企業も引き上げ理由を「人材不足に対する人材の獲得競争」にあるとしていますが、体力に劣る中小企業ではここまでの賃上げには踏み切れず、高賃金の企業に人材が集中するだけであり、社会全体での慢性的な人材不足は解消しません。また、大企業といえども新卒の初任給を上げることは、すでに在籍する社員への影響もあります。

一般的に日本の企業では、労働の対価である賃金は、貢献度との関係で次のグラフのような相関があります。

 

若年層では企業が社員に投資して育成する段階ですので、社員は貢献度(働き)以上の賃金を得ますが、中堅層になるとそれが逆転し、企業が若年層での投資を回収するため、社員は働きに満たない賃金で我慢させられます。そうして我慢した先に、高齢層になるとご褒美として働き以上の賃金を得られるという構図が一般的でした。

つまり、上のグラフでは賃金と貢献度が一致していないA、B、Cのエリアにおいて、生涯ではA+C=Bの等式が成立することで辻褄が合っています。

ところが今般、貢献度カーブが変わらない状態で賃金カーブのうちAの部分がアップするわけですので、B、Cの部分がそのままであれば、A+C>Bとなり、企業の負担は膨らみます。A+C=Bの等式を維持しようとすれば、下のグラフのようにBの部分の賃金カーブを下げて貢献度との乖離を大きくするか、もしくはCの部分の賃金カーブを下げて貢献度との乖離を小さくすることになります。


これでは初任給を上げて人材を獲得しても、中堅になると働きと賃金の乖離が今以上に大きくなり、人材の流出が激しくなってしまいます。かといって、B、Cのエリアのカーブを維持することがどこまで可能なのかは疑問です。もちろん、成果主義の要素を強め、中堅層以降の個人差が大きくなることは間違いないでしょう。

初任給高騰バブルが崩壊しないことを願います。

 

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