自民党の総裁選が注目を浴びています。
今回の総裁選において重要な論戦テーマの一つに、「解雇規制緩和」があります。解雇規制とは、労働契約法第16条で「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして無効とする」と定め、解雇を制限しているものです。
ところで、解雇には、懲戒解雇、整理解雇、普通解雇の3種類があります。このうち懲戒解雇は就業規則等に定める解雇事由に該当する場合の解雇です。また、整理解雇は人員整理を行う際のいわゆる「リストラ」のことで、①人員削減の必要性、②解雇回避努力、③合理的な人選基準、④労働者側への十分な説明の4つの要件が必要とされています。その意味では懲戒解雇、整理解雇とも要件はある程度明確にされています。
一方で、普通解雇は労働者の能力不足や規程違反などにより解雇する場合のことです。普通解雇においても社会通念上相当な理由が必要ですが、整理解雇ほどの明確な要件はなく、解雇の妥当性について裁判所は個別に非常に厳しく判断しています。
今回の総裁選において議論の的になっている解雇の種類は、候補者によって認識が違いそうですが、整理解雇、普通解雇を包括したものであろうと思います。しかしながら、整理解雇であればリストラに自ら応募した、他の企業でも十分にやっていける優秀な労働者は別として、一般的にリストラのターゲットとされる専門知識を持たない中高年労働者や、勤務成績不良や規程違反で普通解雇された労働者を成長分野に移転させることが果たして可能かどうかは疑問です。今以上に失業率が高まるでしょう。
現在の解雇規制は企業に必要以上の負担を掛けることから、解雇規制の緩和自体は進めるべきですが、その目的が雇用の流動性を高めることにあるのなら、解雇によるのではなく、労働者側の自由な意思で労働力が移転できる仕組みとするほうが効果的です。
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