人事労務の「作法」

企業の人事労務課題を使用者側の立場で解決します

017.「年金は何歳から受給するのが得か」議論の落とし穴

60歳を迎えるころから、世間では年金を何歳から受給するのが得かといった新聞や雑誌の記事に関心が集まるようです。

会社員の場合、60歳定年であっても65歳までの再雇用制度が用意されていることが多く、年金の繰り上げ受給を選択するケースは少なく、議論の的は65歳以降に繰り下げて受給するかどうかということでしょう。使用者の立場としては、社員あるいは元社員が何歳から年金を受給しようが関係のないことですが、後々苦情が出ないように、在職中に正確な情報を伝えたいところです。

一般的に年金を繰り下げて受給すると、1ヶ月あたり0.7%ずつ加算され、70歳まで5年間繰り下げると42%増しとなります。70歳まで働くことができて収入が見込めるのであれば、繰り下げ受給は魅力的な選択です。しかしながら、65歳で引退して収入がない状態で、繰り下げ受給の加算に期待しながら貯蓄を取り崩して生活するというのは考えものです。

標準的な年金額の人が70歳まで繰り下げて受給した場合、65歳で受給するよりも総額で増えるのは81歳11ヶ月以降です。つまり、81歳11ヶ月よりも長生きした場合、70歳まで繰り下げて受給したほうが得ということになります。

ここまではよく目にする情報ですが、注意が必要なのは、この試算はすべての人に適用されるとは限らないということです。

まず、人の寿命は誰も予測できないということ。81歳11ヶ月を待たずに亡くなった場合、結果的には65歳受給開始よりも少なくなります。また、この試算はあくまでも額面での比較であって、手取り額で比較した場合は、その人の置かれた状況によって違いますが、おそらく損益分岐点となる年齢は上回ります。

更に、年金受給者に加給年金の対象となる配偶者がいる場合、加給年金は繰り下げによる割増対象外で、しかも繰り下げ期間中は加給年金が支給停止となります。配偶者が5歳年下の場合、70歳まで繰り下げしている間に、年間約39万円の加給年金5年分の約195万円が消えてしまいます。これを取り返すにはさらに長生きが必要です。

というわけで、社員が退職する前に年金の受給について説明する場合は、決して世間の情報だけに惑わされず、一人ひとりの状況にあった受け取り方を年金事務所でよく相談するようにアドバイスしてあげましょう。

 

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