人事労務の「作法」

企業の人事労務課題を的確に解決します

145.人事制度の構築(35) 退職金も賃金の重要な一部です

人事制度を構成する三つの要素(等級制度、評価制度、賃金制度)のうち、最後の賃金制度についての説明の途中でしたが、前回までで賃金制度の中の月例給与と賞与について解説は一通り終了しています。今回は残りの退職金について考えます。

退職金の支給は義務ではありませんが、現在では約75%の企業で支給されているようです。退職金は、公的年金だけでは不足する老後の生活支援と、賃金の一部の支払いを保留する賃金の後払いを目的としています。つまりは、企業が従業員に対して長期間勤務することを推奨する狙いがありました。

しかしながら、終身雇用が崩壊しつつある現在、若い世代を中心に定年まで継続勤務する前提ではなくなってきていることと、昨今の賃金アップによって人件費負担が増え、賃金の後払いである退職金の考え方にも変化が見え始めています。退職金を廃止し、将来よりも今の賃金に反映する企業も存在するでしょう。

とはいえ、中高年従業員にとっては、住宅ローンの負担や子供の教育費、親の介護費用、更には自身の老後の生活資金など近い将来の経済的負担に対して、まとまった金額が期待できる退職金は魅力的です。また、若い世代にも就職先企業を選ぶ基準の一つに福利厚生制度の充実を挙げる人も高い割合で存在することから、退職金の存在はアピールポイントとなります。退職金も賃金の重要な一部です。

それではどのような退職金制度を構築するのが良いかですが、まず、一般的な退職金の種類について説明します。

通常、退職金は「退職一時金」と「退職年金」に分かれます。

退職一時金とは、従業員が退職する際に規程に定められた金額が会社から直接一時金で支給されるものです。支給原資は外部積立ではなく、資金繰りの範囲で賄われます。また、税務上は支給した事業年度の損金となります。一度に何人も退職すると、資金繰りと損益が悪化します。

一方、退職年金とは企業年金とも呼ばれ、法令の制約を受けつつ、税制上の優遇措置を受けられる制度です。一定期間(あるいは生涯)、分割して受け取る年金の仕組みです。一般的には「確定給付型」の制度と「確定拠出型」の制度が存在します。原資は外部の金融機関に積立し、掛金は毎期損金算入されるため、企業の負担は平準化されます。

次回、退職一時金と退職年金についてさらに詳しく解説します。

 

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144.受援力を身に付けましょう

2026年がスタートしました。年末年始9連休のあと、今日が仕事始めという人も多いかと思います。

年末年始に限らず、休みが続いた後、翌日からの仕事のことを考えると、何となく憂鬱になるものです。特に初日が月曜日の場合はなおさらです。

このような症状が出る原因は、仕事がしたくないという拒否反応ではありません。休みの間、緩んでいた緊張が再び張り詰める前の自然な反応なのでしょう。自身の仕事で求められる成果、責任、プレッシャーなどが一気に押し寄せるのでしょう。

もともと、日本人は責任感が強く、自分の仕事を他の人に手伝ってもらうことが苦手な気質を持っています。そのような気質が、休み明けの憂鬱感をさらに強めているのです。

そこで、現在のビジネスパーソンに身に付けてもらいたい能力の一つに「受援力」というものがあります。受援力とはもともと「災害時などに支援を受ける、受け入れる力」という意味で防災用語として使われてきた言葉です。2011年の震災以降、支援を効果的に受け入れる手段として注目されています。

そして今、企業においても、困ったときに「手伝って」とか「助けて」とお互いに遠慮なく言える関係性の構築が求められています。コロナ禍以降、リモートワークの進展により、社内における偶発的なコミュニケーションが減少し、成果主義の拡大により他人の仕事ぶりなど気にしていられない状況が見られます。

その結果、誰にも相談できずに精神的に追い詰められてメンタル不調に陥ったり、一人で抱え込んで取引先企業に対して自社の信用を損なう事態も引き起こしかねません。

受援力を発揮することで、お互いに頼り合い、組織のパフォーマンスが向上し、個々人の能力の総和以上の成果が得られるといわれています。ただしその前提には、Google社が示したように、「心理的安全性」を担保する必要があります。心理的安全性が担保されるのは「一人一人が自分らしく働いている状態」、「安心して何でも言い合える状態」、「否定されないと感じる状態」のことです。

心理的安全性を高めるのは管理職のマネジメントによるところが大きいでしょう。リモートワークが中心であっても、成果主義を徹底していても、部下に対して押し付けではないコミュニケーションを心掛け、心理的安全性を高める工夫をしてください。

次の休み明けには憂鬱感が少し軽減するかもしれません。

 

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143.今年も無事年末を迎えました

2025年も残すところあと数日となりました。今年も何とか週1回のペースでこのブログを更新することができ、安堵しています。

昨年末の投稿を読み返してみると、今年はブログ内容の充実とデザインの一新を目標に掲げていました。

内容については、今まで通り社会で注目されている話題を人事労務面から切り取って解説したほかに、「メンタルヘルス不調からの復職対応」や「労働基準監督署による調査対応」などのテーマについては、複数回にわたって体系立てて解説することができました。ただ、「人事制度の構築」については最終段階のまとめができないまま年越しとなります。来年には一定の方向性を示して収束させたいと考えています。

一方、デザインはパソコン画面のテンプレートを変更する程度に留まり、あまり代り映えしていません。もう少し研究します。

2026年は高市政権が本格稼働し、労働法制にも影響が出るような予感がします。しかし、どのような労働環境になろうとも、企業とそこで働く労働者の関係性を良好に保ち、双方がともに成長発展できる体制を構築することが、人事労務が果たすべき最大の使命であると筆者は考えます。今後も、そのための「作法」を追求して参ります。

今年も最後までご覧いただきありがとうございます。

来年も情報発信を継続する所存ですので、少しでも皆さまのお役に立てれば幸いです。

来年もよろしくお願いいたします。

 

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142.年収の壁引き上げの次は労働時間規制緩和を期待します

年収の壁が2026年から178万円に引き上げられることが決定しました。当初、自民党はやや慎重な姿勢でしたが、国民民主党の「手取りを増やす」という主張に押し切られた形となりました。

過去の記事(085.「年収の壁」は103万円だけではありません - 人事労務の「作法」)にも記載しましたが、年収の壁は何段階もあり、今回引き上げられたのは、従来103万円だった給与所得者本人が所得税を負担しなければならない基準のことです。2026年からは、年収178万円までは基礎控除と給与所得控除の合計で全額控除されてしまい、所得税の負担がなくなるという仕組みです。

今回の議論で注目されたのは、冒頭に記載した「手取りを増やす」ということです。例えば、年収600万円程度の人は、2025年の減税と合わせると、103万円当時に比べ約5.6万円の減税になります。(2025年は年収の壁が160万円に設定されています)

しかし、もう一つ注目すべきなのは、パート勤務などで働く専業主婦(主夫)等が、働き控えをすることなく178万円まで収入を得ても、配偶者の所得から配偶者控除が全額受けられるということです。

働き控えで思いつくのは、今年の流行語大賞にも選ばれた、高市総理の「働いて働いて・・・」という言葉です。この言葉の直後には世間の反発もありましたが、意図するところは、長時間労働を推奨するわけではなく、働きたい人が年収の壁の影響で働き控えをすることなく働ける環境を作るということにあるようです。これが本意なのか答弁用の説明なのかはわかりませんが、本意であれば年収の壁引き上げで少しは目的を達成したことになります。

しかしながら、日本のホワイトカラーの労働生産性が低いことは間違いなく、生産性を高めるには二つの方法しかありません。一つは時間当たりの効率を上げることであり、もう一つは単純に労働時間を増やすことです。

効率を上げる方法は、技術力の向上やその結果のAIの活用により今後ますます進化し続けるでしょう。ただし、技術力を向上させるための研究には時間が掛かります健康を害するような押し付けられた長時間労働は悪でしかありませんが、目的を持った労働は長時間でも意欲的に続けられるものです。

高市政権には、目的を明確にした労働時間規制緩和政策に取り組んでもらいたいと考えます。

 

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141.労働基準監督署の調査対応は健康経営そのものです

前回まで6回にわたり、労働基準監督署による調査の際の準備、心構え、対応方法などについて説明してきました。今回は一連のまとめで締めたいと思います。

労働基準監督署が調査を行い、企業に是正勧告や指導を行う目的は、もちろん法令違反を是正することにありますが、最大の目的は過重労働による健康障害を防止することにあります。このことは、違法な長時間労働が横行し、過労死問題が社会問題化したことをきっかけに、2015年4月に厚生労働省東京と大阪の労働局内に、「過重労働撲滅特別対策班(通称:かとく)」を設置して取り締まりを強化していることにも表れています。

「かとく」が最初に注目されたのは、某大手量販店の従業員4人に対し、36協定による上限時間79時間を超える最大109時間余りの時間外労働をさせた疑いで、企業と役員、店長2人が書類送検された事件です。この事件では、時間外労働に対する賃金不払いはなく、割増賃金は全額支払われていたにもかかわらず、更には企業や役員だけでなく店長までも書類送検された点で大きな注目を集めました。

このように、労働者の健康障害につながる過重労働に対しては、専門チームが厳しい目で見るようになったことから、一般の労働基準監督署の定期調査でも、労働時間については36協定の範囲内であっても時間をかけて調査されるわけです。

そこで、企業の対策としては、すべての労働者に対して時間外労働を1ヶ月45時間以内に抑えることができれば良いですが、人手不足問題や他社との競争力確保のため、そうもいかない場合もあります。このような状況のときには、長時間労働を可能な限り削減する一方で、労働者の健康障害を防止する方策を合わせて実施することが良いでしょう。

具体的には以下のような取り組みです。

変形労働時間制の採用による業務の繁忙時期に応じた労働

フレックタイム制勤務インターバル制の採用による勤務時間の柔軟化

年次有給休暇の取得促進による心身の疲労回復

医師や保健師による面接指導制度の拡大運用

このような取り組みを行ったうえで長時間労働を削減し、労働者の健康の保持増進に努めるという経営側の意思表示は、労働基準監督署に対してだけでなく、労働者や社会に対しても良いメッセージとなるのです。

これは健康経営そのものであり、労働基準監督署の調査対応を超える次元で、現在の企業に課せられた使命でもあります。

 

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140.指導票を労働環境の改善に利用しましょう

前回、36協定の内容に関わらず、時間外労働が1ヶ月45時間を超えている労働者がいた場合に指導票が交付される可能性があることを説明しました。そこで今回は、このような指導票が交付された時に、どのような是正報告書を提出すれば良いかを説明します。

前回も述べた通り、改善に向けて積極的に取り組む姿勢を示すことが重要です。単に「時間外労働が45時間を超えないように管理を強化します」だけでは具体性に欠けます。

まず、時間外労働が45時間を超える労働者が多数存在する場合は、そもそも業務に対して人手が足りていないことが考えられます。このような場合は、採用人数を増やしたり、他部門からの配置転換によって、一人当たりの負荷を減らすということを実行すべきでしょう。

一方、特定の労働者だけが時間外労働が45時間を超える状態である場合には、ある業務を遂行するにあたって必要な能力、経験、資格等を保有する労働者が限られ、特定の労働者にのみ負荷がかかっている可能性が考えられます。このような場合は、そのような能力等を保有した労働者をピンポイントで中途採用するなどの対策が必要となるでしょう。

このように時間外労働が45時間を超える労働者の状況に応じて、対策を講じて実行しますという内容の是正報告書を提出すればよいでしょう。当然、このような報告をした以上は、具体的に実行した成果を追加で報告を求められることがありますので、報告しっ放しというわけにはいきません。具体的に実行に移す必要があります。

もう一つ、時間外労働が45時間を超える労働者が存在する原因として厄介なのは、人手が足りないわけでも、特定の能力等を保有した労働者が他にいないわけでもなく、労働時間を労働者の自己申告に任せている状態が考えられます。

このような状態では労働者の生産性は低くなり、所謂ダラダラ残業が増え、管理者側もそれを黙認している状態かもしれません。労働者のモチベーションも低い状態でしょう。

このような実態が読み取れるのなら、労働基準監督署の指導を契機と捉え、社内の改革に取り組む良いきっかけとなります。社外のコンサルなどを迎え入れ、人事制度を含めた制度改革と労使双方の意識改革に取り組むことを是正報告に記載してはどうでしょうか。

労働者から見れば、急に管理が厳しくなったと受け取られがちですが、労働環境の改善に向けて労働基準監督署の指導が後押しとなるのです。

 

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139.労働時間に関しては指導票が交付されます

前回まで、労働基準監督署の調査で是正勧告を受ける恐れがある事項について解説しました。総じて違法の認識がなくとも、勘違いによって法令違反となっている事項が多いでしょう。また、過去の調査では指摘されなかった点も、監督官が変われば違法を指摘される場合もあります。

一方で、法令違反ではないが改善が望ましい点について指導票が交付された場合は、その内容にもよりますが、放置せずに改善に向けて取り組みますという姿勢を示すことが重要です。

指導票が交付されやすい事項としては、労働時間に関することでしょう。

36協定で定めうる時間外労働時間の上限は1ヶ月につき45時間、1年につき360時間ですが、特別条項を設ければ、年6ヶ月まで、単月では100時間、複数月平均では80時間、年間720時間までの時間外労働が可能となります。

このような内容の36協定を締結している状態であっても、例えば1ヶ月45時間を超える時間外労働を行った労働者が存在した場合、適切な手順を踏んでいれば決して違法ではありませんが、「45時間を超える時間外労働が認められるため改善を要する」といった指導票が交付される場合があります。

これは単に労働時間の制限を定めた労働基準法の適否だけでなく、過労死や医師による面接指導について定めた労災保険法や労働安全衛生法との関連もあり、近年労働基準監督署が指導を強化している点です。

厚生労働省発行の「過重労働による健康障害を防ぐために」というパンフレット(001186387.pdf)にあるように、時間外・休日労働が1ヶ月45時間を超えると、健康障害のリスクが徐々に高まるという医学的検討結果を踏まえ、仮に45時間を超える時間外労働が可能な36協定を締結している場合でも、時間外労働が45時間以内となるように推奨しているものです。

それでも45時間を超える時間外・休日労働が発生し、健康への配慮が必要と認められた労働者については、医師による面接指導を行うことが望ましいとされています。

過労死の判断基準においては、拘束時間や連続勤務、出張の多寡、心理的負荷などの要素のうち、労働時間が最も客観的な要素となりますので、過労死を防止するため時間外労働については、法令違反でなくとも指導が強化されているのです。

 

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