人事労務の「作法」

企業の人事労務課題を的確に解決します

134.退職代行サービス会社の弁護士法違反疑惑について

退職代行サービス会社が、弁護士法違反の疑いで警視庁の家宅捜査を受けたとの報道がありました。

退職代行サービス会社のサービス内容は、退職希望者に代わって勤務先に退職の意思表示を行い、勤務先からの回答を依頼者に返すことが基本ですが、単に伝言だけでなく交渉事が発生することが予測できます。例えば未払い賃金の支払い交渉や、年次有給休暇の取得交渉などです。退職代行サービス会社が報酬目的でこの交渉を直接行ったり、第三者にあっせんしたりすることは「非弁行為」として弁護士法で禁止されているものです。

似たようなケースが社会保険労務士業界でも起きています。

コロナ禍において盛んに行われた雇用調整助成金等の申請手続代行は、社会保険労務士の独占義務とされているところですが、社会保険労務士でないコンサル会社等が他人の求めに応じ、報酬を得て、助成金申請手続き代行を行うことは、社会保険労務士法で禁止されています。

また、 コンサル会社等が助成金申請を目的として請け負った業務について、社会保険労務士が名義を貸す行為や、コンサル会社等が請け負った業務を社会保険労務士に再委託する行為も禁止されています。

退職交渉や助成金の申請などの業務を、士業が直接ではなく、士業と依頼者の間に法律知識が不十分な者(紹介者)が入って行えば、士業は依頼者ではなく紹介者寄りの対応をしがちです。その結果、依頼者の権利が保護されず、不利益が生じる恐れがあることから、各士業には独占業務が定められ、あっせんを受けることを禁止されているのです。

退職代行サービスは今回の事件をきっかけに世間の注目を集め、法令遵守体制がより厳しく監視されます。急速に発展したサービスであり、会社ごとの特色が見いだせないまま伝言サービスに徹するだけでは、価格競争も激しくなり、淘汰される会社も出てくるでしょう。

退職代行サービスを利用することのデメリットは過去の記事(111.退職代行サービス利用にはデメリットもあります - 人事労務の「作法」)にも記載しましたが、今回の事件をきっかけに、利用者と企業人事の意識のずれはより大きくなる気がします。やはり、このようなサービスを利用しなくともコミュニケーションが図れる関係性を構築することが何よりでしょう。

 

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133.黒字リストラを機能させるために

近年、業績が好調な企業においても、大規模なリストラ、いわゆる「黒字リストラ」が行われています。ある大手電器メーカーでも、従業員数の5%にあたる1万人規模の人員削減を行うという報道もありました。民間の信用調査会社の調べによると、2024年に希望退職を募集した企業の約6割が、直近で黒字決算であったそうです。

かつてのリストラといえば、90年代後半以降、赤字企業が最後の手段として生き残りをかけて人員削減を行うものでした。しかし、特に近年の黒字リストラはそれとは違い、好業績の中、新たな成長分野への経営資源の再配分や、組織の新陳代謝のための構造改革を行うものです。

人員削減のターゲットとなりやすいのは、成長分野への転換など環境変化に対応できない社員、人件費に見合う成果が出せない社員、コミュニケーション不足など組織との関係性が希薄な社員などで、中高年齢層だけとは限りません。これからは成長分野に必要な専門知識を身に付け、主体的に自ら学び続ける意欲を持った高付加価値な人材が求められる時代で、そのような人材を確保、育成する目的で黒字リストラが行われているのです。

ところで、成長分野への人材の流動化を目指しての黒字リストラで思い出されるのが、昨年の自民党総裁選で話題になった解雇規制の緩和の議論です。昨年は目的が不明確なまま議論の的となり、途中でトーンダウンした経緯もあり、今年の総裁選には一切話題になりませんでしたが、このまま黒字リストラだけがフォーカスされるのは危険です。

というのは、黒字リストラはあくまでも希望退職の募集のかたちで実施されますが、人員削減ありきで事が進むと、不当な解雇が横行する予感がします。黒字リストラは整理解雇の4要件には該当し難いからです。

成長分野への人材流動性を高めることは必要ですが、その手段が解雇によるものではなく、労働者の自由な意思によるべきものであることは昨年の記事にも記載しました。(076.解雇規制緩和は実現するか - 人事労務の「作法」

黒字リストラが有効に機能するためにも、昨年の記事に記載した通り、新しい政権には大学教育の見直し、職業訓練の充実、セイフティネットの確保、社会保障の拡充に至るトータルでの働く環境整備に取り組んでもらいたいものです。

 

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132.ワークライフバランスを捨てるわけではありません

新しい自民党総裁の発言が注目を集めています。「ワークライフバランスという言葉を捨てる」という発言のことです。

ワークライフバランスとは、直訳すると「仕事と家庭生活の調和」のことで、仕事を最優先して家庭を顧みないとか、逆に仕事は収入を得る手段と割り切って最低限の働きしかせず、趣味や家庭生活を重視するという考えではなく、仕事も家庭生活も調和させましょうという考え方です。つまり、仕事か家庭生活のどちらかを選ぶのではなく、両者が調和することで相乗効果が期待できるということです。

しかしながら、このような働き方については、現在においては違った考え方もあります。

例えば、ジョブ型雇用や裁量労働制の浸透により、成果をより期待される傾向にあり、成果を得るために人一倍努力しなければならない時もあります。特に、若手のうちは労働法を遵守したうえで仕事に没頭する時期があってもよいと思います。

一方で、「静かな退職」も認知されていて、どの世代においても静かな退職を実践している人の割合が4割を超えているという調査もありました。(119.「静かな退職」を放置しないで - 人事労務の「作法」

静かな退職を実践している人には、仕事にやりがいを見いだせない人だけでなく、家庭の事情、例えば親の介護などで仕事よりも家庭を重視せざるを得ない人もいます

このような中で飛び込んできた自民党新総裁の発言に対し、働きたくても家庭の事情で十分に働けない人からは、「私たちにもワークライフバランスを捨てて働けと言うのか」といった反発が出ているのでしょう。

ただ、勘違いしがちなのは、ワークライフバランスは日々の仕事や家庭生活においてだけ、その調和を求めているのではないということです。毎日毎日、あるいは1週間や1ヶ月、場合によっては数年間バランスしていない状態であってもよいのです。

つまり、会社が危機的な状態のときには、何としても会社を存続させるために頑張らなければならない時もあります。親の介護で家庭を重視しなければならない時もあります。職業生活全体において仕事と家庭生活が調和してれば良いのです。

物価高など危機的な日本経済の状況を打破するためには、この時期政治家にはワークライフバランスではなく、新総裁が言う通り仕事に邁進していただくことが正しいのではないでしょうか。

 

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131.職場復帰支援プログラムを策定しましょう

直近4回の記事で、メンタル不調からの復職にあたってのポイントを解説しました。そして最後の締めくくりとして、個々人の状況に応じた対応が必要と記載しましたが、補足すると、例えば復職の可否判断を労働者によって厳しくしたり緩めたりするということではありません。一定の基準に基づいて、個々人の症状やメンタル不調に陥った原因などを踏まえ、一人一人に寄り添った対応をしましょうという意味です。

ここでの一定の基準というのが、「職場復帰支援プログラム」のことです。

職場復帰支援プログラムは第1ステップから第5ステップで構成されます。

第1ステップは「休業開始及び休業中のケア」です。労働者から病気休業の診断書が提出されると、その内容に応じて休職を命じ、人事や産業保健スタッフが様子伺いをする段階です。休業した時点から復帰に向けたプログラムが開始されるのが特徴です。

第2ステップは「主治医による職場復帰可能の判断」です。労働者からの意思表示を受け、職場復帰が可能という診断書を受領します。

第3ステップは「職場復帰の可否判断及び職場復帰プランの作成」です。労働者の意思確認と産業医による評価、場合によっては主治医からの診療情報などを収集し、職場復帰の可否を判断する段階です。職場復帰可能と判断すれば具体的な復職日、復職部署、業務内容等の職場復帰プランを作成します。

第4ステップの「最終的な職場復帰の決定」では、作成した職場復帰プランを労働者に示し、最終確認を行います。復職前にリハビリ出社を認めたり就業時間制限を行うなどイレギュラーな対応を行う場合には、その内容を書面に記載した「確認書」を取り交わすのが良いでしょう。

職場復帰した後、第5ステップで「職場復帰後のフォローアップ」として、再発防止に向けて回復状況や勤務状況を評価し、必要に応じて職場復帰プランを見直すなど行い完全復帰を目指します。

以上の職場復帰支援プログラムに基づき、予期せぬ事象も想定しながら個々人の置かれた状況に寄り添って復職に向けた対応を行うというのが一連の流れです。ぜひ、事前にプログラムを策定しておきましょう。

下に厚生労働省による「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」を参考にした職場復帰支援プログラムのフロー例を示します。

 

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130.メンタル不調からの現実的な復職対応(その2)

前回の続きから記載します。

主治医が現段階で休職前の業務に復帰することは難しいと判断した場合、一つの方法としては業務内容や所属部門を変更して復職させることです。

元の業務への復帰を前提に、軽作業というわけにはいかないですが、業務負荷軽減を考慮しましょう。ただし、業務負荷を軽減するのは一時的で、あくまでも元の業務に復帰するためのリハビリ期間と捉え、概ね3ヶ月程度で元の業務に戻ることを目標とします。軽減した業務に慣れてしまうと、元の業務に戻ろうという意欲が途切れてしまうからです。

しかし、メンタル不調に陥った原因が職場の人間関係にあったのなら、その関係性を解消すれば良いのですが、業務そのものがメンタル不調の原因であったのなら、多少のリハビリ期間を設けても元の業務には復帰し難いものです。この場合は、一時的ではなく完全に業務内容や所属部門を変更する必要が出てきます。

ただし、職務を限定して採用したジョブ型雇用の場合、業務内容の変更には本人の同意が必要です。また、職務の変更に伴って賃金額が変更になることもありますので、併せて同意を得る必要があります。

主治医が現段階で元の業務に復帰することが難しいと判断した場合のもう一つの方法は、回復するまで待つということです。中途半端な状態で復職し、仮に一時的に業務を軽減しても、回復途中にあった場合は再発のリスクがあります。一度復職しても再発した場合は本人も自信を失い、次の復職が大変難しくなります。完全に回復してから復職させるというのが一番良い方法です。

しかしながら、休職期間にも限度があるため、やがて復職か退職かの判断を迫られる段階がやってきます。この段階でまだ回復が不完全な場合は、無理に復職させるよりも、退職とした方が再発のリスクを考慮すると不安は少ないでしょう。

ここで可能であれば、退職となるが後々回復したら再入社を検討することを伝えておけば、この社員も安心して治療に専念できるでしょう。もし本当に回復したという連絡があれば、経験者として中途採用を検討すればよいわけで、未経験者を採用するよりも効率的です。

以上、4回に亘ってメンタル不調からの復職にあたってのポイントを解説しましたが、決してすべての人に通用する正解というものはありません。やはり、個々人の状況に応じた対応が必要になります。

 

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129.メンタル不調からの現実的な復職対応(その1)

前2回において、メンタル不調からの復職時の理想的な手順とその際の想定外の事象について示しました。そこで今回は、想定外の事象が起きた際の現実的な対応方法について解説します。

まず、休職中の社員への連絡は基本的にはメールで行いますが、業務上使用しているアドレスは使いません。業務に関する連絡が入っている可能性があり、それを見て更にストレスが増幅することもあるため、業務とは関わりない個人的なアドレス宛に連絡します。そのために、入社時及び年1回程度は緊急連絡用の個人アドレスを届け出させるのが良いでしょう。

返信がない場合がありますが、基本的にはメールを見てはいるが返信ができない状態でしょう。そのようなときには、あまり急かさない程度に、日時を指定して自宅を訪問する旨連絡することも有効です。できれば産業医保健師に同行してもらい、話を聞いてもらうことができればベストです。あくまでも社員の健康を慮っての提案だということが伝われば、自宅訪問を受け入れてくれなくても、返信がもらえたり、自宅近くのカフェなどでの面談が実現しやすくなります。

次に、主治医からの診断書に復職にあたっての制約が多く記載されている際の対応です。復職当初の残業制限は必要なことですが、業務内容の制限、例えば「軽作業から始めることが望ましい」といった記載があれば注意が必要です。

休職した社員は元々軽作業を行っていてメンタル不調に陥ったわけではなく、その企業の中枢を担う業務をバリバリとこなしていたはずですので、そもそも軽作業など存在しないのです。主治医が「軽作業から」という診断書を書く背景には、患者である社員の元々の業務内容を理解していない可能性があります。社員側も色んな想いからメンタル不調に陥った本当の原因を主治医にうまく伝えられていなかったり、あるいは自分でも理解できていない場合もあります。

このようなときは、社員の同意を得て人事の人間が主治医と面談したり、あるいは通院に同行したりして、この社員の本来の業務内容を主治医に伝え、多少のリハビリ期間を設ければその業務に復帰できる状態かどうかを確認する必要があります。

実情を話すと、主治医は休職前の業務に復帰することは難しいと判断することがあります。となると、業務内容あるいは所属部門を変更して復職させるか、復職のタイミングを先送りするかという判断が必要になります。

目標とする文字数(1000文字前後)に達しましたので、この続きは次回記載します。

 

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128.メンタル不調からの復職には予期せぬ事象がつきものです

前回、メンタル不調からの復職に向けての理想的な手順(127.メンタル不調からの復職 - 人事労務の「作法」)について示しました。しかし、このように順調に事が運ぶことは稀で、各段階でいろいろな予期せぬ事象が起きます。今回はそのような事象について示します。

先ず、休職中に人事から様子伺いのメールをしても、直ぐには返信はありません。あまり急かしてもかえってプレッシャーになるので、「体調の良いときに様子をお知らせください」としても、返信がないことが多いです。

そのうち休職期間の満了時期が近づき、復職できるのかできないのかを見極める段階が来ます。復職できないのであれば残念ながら退職となりますが、復職できるのなら前回示したような段取りがあるので、その段取りを連絡しますが返信がないまま、いよいよ退職の案内をしなければと考えていた頃に、突然、診断書が送られてきます。

診断書の内容は、休職期間の満了日に合わせて「復職可能と判断する。ただし、当初2週間は1日5時間程度の短時間勤務とし、軽作業から始めることが望ましい。」といった制限が付いたものです。

同時に社員から連絡があり、上司と人事による面談を申し入れますが、上司の同席を渋ります。聞くと、メンタル不調の原因がその上司との関係にあるとのことなので、とりあえず人事単独で面談します。

面談する限りでは不調そうには見えず、産業医に事情を説明し面談してもらいますが、産業医も同じような感覚です。このような状況で復職を拒否する理由は見当たらず、関係者との協議の上復職を許可します。

ただし、規程上、私傷病を理由にした短時間勤務の制度はなく期限を定めて特例的に短時間勤務を認めることにします。また、元の上司との接触がないように、他の部署やチームへの異動を検討します。

休職期間満了間近にこれらを急いで対応することになります。

以上は極端な例ですが、メンタル不調からの復職に当たっては予期せぬ事象が起きることを前提に考えておいた方が良いでしょう。逆に言うと、会社の事情を優先的に考えるのではく、メンタル不調で休職している社員に寄り添った対応を優先すべきです。会社の事情に配慮する余裕がないからこそ、メンタル不調で苦しんでいるのです。

次回は、このような予期せぬ事象への対応方法について解説します。

 

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