人事労務の「作法」

企業の人事労務課題を的確に解決します

128.メンタル不調からの復職には予期せぬ事象がつきものです

前回、メンタル不調からの復職に向けての理想的な手順(127.メンタル不調からの復職 - 人事労務の「作法」)について示しました。しかし、このように順調に事が運ぶことは稀で、各段階でいろいろな予期せぬ事象が起きます。今回はそのような事象について示します。

先ず、休職中に人事から様子伺いのメールをしても、直ぐには返信はありません。あまり急かしてもかえってプレッシャーになるので、「体調の良いときに様子をお知らせください」としても、返信がないことが多いです。

そのうち休職期間の満了時期が近づき、復職できるのかできないのかを見極める段階が来ます。復職できないのであれば残念ながら退職となりますが、復職できるのなら前回示したような段取りがあるので、その段取りを連絡しますが返信がないまま、いよいよ退職の案内をしなければと考えていた頃に、突然、診断書が送られてきます。

診断書の内容は、休職期間の満了日に合わせて「復職可能と判断する。ただし、当初2週間は1日5時間程度の短時間勤務とし、軽作業から始めることが望ましい。」といった制限が付いたものです。

同時に社員から連絡があり、上司と人事による面談を申し入れますが、上司の同席を渋ります。聞くと、メンタル不調の原因がその上司との関係にあるとのことなので、とりあえず人事単独で面談します。

面談する限りでは不調そうには見えず、産業医に事情を説明し面談してもらいますが、産業医も同じような感覚です。このような状況で復職を拒否する理由は見当たらず、関係者との協議の上復職を許可します。

ただし、規程上、私傷病を理由にした短時間勤務の制度はなく期限を定めて特例的に短時間勤務を認めることにします。また、元の上司との接触がないように、他の部署やチームへの異動を検討します。

休職期間満了間近にこれらを急いで対応することになります。

以上は極端な例ですが、メンタル不調からの復職に当たっては予期せぬ事象が起きることを前提に考えておいた方が良いでしょう。逆に言うと、会社の事情を優先的に考えるのではく、メンタル不調で休職している社員に寄り添った対応を優先すべきです。会社の事情に配慮する余裕がないからこそ、メンタル不調で苦しんでいるのです。

次回は、このような予期せぬ事象への対応方法について解説します。

 

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127.メンタル不調からの復職

突然メンタル不調により出社できなくなる社員への対応については、過去の記事(067.突然出社しなくなる社員への対応 - 人事労務の「作法」)に記載しました。事情が判明すれば、とにかく主治医に預けて治療と休養に専念させる事が重要です。

その上で、休職中は定期的に人事から連絡をし、様子伺いをしながら復職の時期を見据えて、回復具合を確認しましょう。

ただし、規程では休職期間の制限があるでしょうから、休職期間満了前には復職の可否を判断する必要があります。休職期間の長さにもよりますが、復職の可否を判断するには以下のような手順があり、一定の時間を要しますので、約2ヶ月くらい前には、具体的な満了日を改めて通知し、復職支援プログラムに沿って準備を進めましょう。

復職にあたっての手順としては、先ず、主治医による「復職可能である」という内容の診断書を受領するところから始まります。この診断書がないと復職に向けたプログラムがスタートできません。残業制限など復職にあたっての制約事項などがあれば、診断書に盛り込んでもらいましょう。

次に、休職中の社員本人と休職前の上司に人事が加わって面談を行います。メンタル不調により休職した社員は、基本的に元の職場に復職することを原則としますので、一時的な業務の軽減はあっても、元の業務に復帰できるかどうかが判断の基準となります。

上司と人事による面談で、業務に復帰できそうだと判断すれば、次に産業医との面談を行い、最終的な復職可否についての意見を聴取します。この時に、主治医の診断書にある制約事項を具体的に復職支援プログラムに落とし込んで明文化します。

ここまですべて完了した状態で、最終的には関係者による復職判定会議などで復職可否を判断します。復職可能と判断すれば、具体的な復職日を社員に通知し、復職日までは人事からこまめに連絡し、出社意欲を高めていきましょう。

復職後は定期的に産業医との面談を行い、完全に元の状態に戻るまで観察することで、一連の復職支援プログラムが完結します。

しかしながら、復職に向けての流れがこのようにスムーズに運ぶとは限りません。むしろ、あらゆる段階で滞るのが通例です。滞った際の対処法については次回以降に解説します。

 

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126.人事制度の構築(34) 賞与原資を分配する方法

前回、賞与を会社業績にダイレクトに連動させる仕組みについて解説しました。(125.人事制度の構築(33) 賞与を会社業績にダイレクトに連動させる - 人事労務の「作法」

そこで次は、個人の勤務成績に応じて分配する仕組みについて解説します。

前回示した通り、決算の数値を踏まえて会社全体での賞与の原資総額(例えば営業利益の何パーセントとか)を決定します。この賞与原資を個人の勤務成績に応じて分配する方法は、ポイント制によります。

下の表は各等級ごと、評価ランクごとの賞与ポイントの一例です。

特徴としては、

Aランクを中心に上下のランクに均等にポイントが増減していること(青の矢印)

上位等級ほど最高ランクと最低ランクのポイント差が大きいこと(赤の矢印)

③昇格により等級が1段階上がり評価ランクが1ランク下がってもポイントは減額しないこと(緑の矢印)

③については、昇格して評価基準が厳しくなり、特に昇格直後の年度などは思ったほどの成果が出ずに低い評価となる場合もあります。このようなときに、「昇格しないほうが良かった」とならないように配慮するものです。

このようなポイントテーブルに基づき、各個人の評価ランクに応じたポイントを全員分合計します。例えば、全員のポイント合計が10,000ポイントだった時、先に決定している会社全体の賞与原資(例えば5,000万円)をポイント合計で割ります。

この場合は5,000万円÷10,000ポイントで、ポイント単価は5,000円となります。

このポイント単価を各個人の評価ランクに応じたポイントに掛け合わせることで個人ごとに賞与金額が決定するという仕組みです。例えば、3等級で評価ランクが「S」の人は、5,000円×132ポイント=660,000円、M1等級で評価ランクが「A」の人は、5,000円×250ポイント=1,250,000円となります。

会社業績が良い年は、相対的に評価ランクが上振れしポイント合計は増えますが、ポイント単価の下落効果以上に賞与原資が多く確保されることから、皆に相応の金額が分配されます。

一方、会社業績が悪い年は、相対的に評価ランクが低くなりポイント単価を押し上げる効果があるため、賞与原資が少ない場合でも、評価ランクが良い人には他の人よりも多い金額を分配することができます。

このように、賞与を会社業績と個人の勤務成績に連動する仕組みとすることで、モチベーションの向上に活用しましょう。

 

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125.人事制度の構築(33) 賞与を会社業績にダイレクトに連動させる

前回までにこのテーマで、賞与をモチベーションを喚起する目的でメリハリのある支給とすることを提案しました。(112.人事制度の構築(32)賞与はメリハリある支給を - 人事労務の「作法」 )その事業年度の業績のうちの一定部分を、個人の勤務成績に応じて分配するという考え方です。

ここで課題となるのは、賞与の支給時期と決算時期のズレです。

一般的に賞与は、夏(6月)と冬(12月)に支給されることが多いでしょう。一方で、決算時期は3月というケースが多く、ある年の3月決算の業績を見込んで前年12月賞与で社員の勤務成績に応じて分配するか、もしくは、3月決算の実績に応じて6月賞与で同様に分配するかです。

しかしながら、前者(12月に分配)の場合、3月決算の売上、営業利益等が確定しない段階で賞与原資としてどの程度の金額が確保できるかは予測での支給となるため、その事業年度の業績に応じた分配という意味合いは薄れます。どうしても安全を見て、低めに見積もることになるでしょう。

一方で後者(6月に分配)の場合、3月決算の数字は確定しているでしょうが、既に次の事業年度に入っていますので、6月支給の賞与は会計上次の年度の経費となります。3月決算では利益が大きかったからと言って6月に賞与を多く支給すると、次の年度の決算に影響する場合があります。

これらの課題を解消する策としては、一つは、6月、12月の他、3月に決算賞与を支給するという方法はよく利用されています。ただ、3月の決算賞与は6月と12月に支給した賞与の合計以上に支給できるほどの業績であった場合に限られ、金額もモチベーションを喚起するほど大きくはならないでしょう。

もう一つの方法としては、賞与の支給時期を9月と3月に変更することです。9月の中間決算の業績に応じて会社全体の賞与の支給総額を算出し、それを個人の勤務成績に応じて分配し、同様に3月の本決算の業績に応じて分配すれば、会計上もその事業年度の経費として認識されます。支給総額の算定は営業利益の何パーセントといった基準を設けておけば、会社業績にダイレクトに連動する仕組みとなります。

ただし、日本企業の慣習として夏冬の賞与支給が定着していますので、支給時期の変更にあたっては労働組合側との丁寧な協議が必要になることは確かです。

 

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124.1週間後の社会保険労務士試験に向けて

全国的に暑い日が続く中、1週間後には社会保険労務士試験が実施されます。社会保険労務士に限らず、税理士や中小企業診断士も8月の暑い時期に試験が開催されます。会場となる大学の夏休みに合わせてのことなのでしょう。

筆者が受験した約30年前は、今ほど気温が高くはなかったですが、冷房設備がない試験会場もあり、あえて北日本の試験会場で受験する人もいたくらいです。筆者も冷房設備がない会場で受験した記憶があります。

社労士登録後の2000年頃から一時期、試験実施事務を社労士会が厚生労働省より受託し、筆者も試験監督として何度かお手伝いした経験があります。自分が試験を受けるわけではないですが、受験生の真剣な表情に触れると、試験監督側も身が引き締まる思いで、受験生がベストを尽くせるような運営を心掛けたことを思い出しました。自分が受験したときは周りの様子など気にならなかったのですが、試験監督として会場全体を見渡していると、人それぞれ集中の仕方の違いを感じたものです。

ご存じの通り、試験は選択式試験と択一式試験で構成されています。特に、択一式試験は3時間30分という長丁場ですので、集中力をいかに保持するかがポイントです。

しかしながら、3時間30分もの間集中力を維持することは難しく、どこかでケアレスミスを起こす可能性も高まります。今は冷房設備が完備している会場で暑さの心配はないにしても、水分補給は心掛けましょう。指定された時間内に試験監督に申し出れば許可されるはずです。水分補給で一息入れて考え直すと、ちょっとした思い違いに気が付くこともあります。

また、3時間30分という長時間ですので、トイレに行きたくなることもあるでしょう。この場合も試験監督に申し出れば許可されます。筆者が試験監督を行っていた時は、ポーチなどの中身を確認したうえで、トイレの入り口まで同行したものです。携帯電話などが普及する前の話です。

別にトイレに行きたくなくても、一度は席を立って顔を洗って戻るだけでも気分転換になります。ぜひ心掛けてください。

択一式試験は五者択一ですが、正解の選択肢を二つまでには絞り込めても、最後の判断に迷うことがあります。そのようなときには自分なりの気分転換の方法で一息入れ、問題文と選択肢をよく読めば、正解が見えてくるかもしれません。

受験生皆さんのご健闘をお祈りしています。

 

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123.無駄な業務はないですか

ある調査で「職場での無駄な業務」についてアンケートを実施したところ、約95%の人が「無駄な業務がある」と回答したそうです。

無駄な業務として一番回答が多かったのが、「朝礼への参加」だそうです。以下、順に「意味のない会議」、「必要性の低い資料作成」と続きます。

朝礼にしろ会議にしろ、また朝礼や会議で使用する資料の作成など、昭和の時代においてはホワイトカラーの重要な業務の一つで、誰も無駄な業務という意識は持っていませんでした。ところが時代が平成から令和に移り変わるにつれて、無駄な業務として厄介者扱いされる背景には何が影響しているのでしょうか。

一つは情報共有の方法の変化があります。

メールやチャットなどの情報共有のツールが確立されている現在では、朝礼や会議で対面で伝達しなければならな事項は多くありません。それでも長年の習慣から脱却できずに、定例的に朝礼や会議を開催し時間を費やしていると、大きなビジネスチャンスを逃すことにもなりかねません。

二つ目には働き方の変化が挙げられます。

裁量労働制フレックスタイム制の浸透により、働く時間が各労働者の裁量にゆだねられているにもかかわらず、上司の命令で決まった時間に朝礼や会議の予定が入り、かつ、内容がメールで済む内容であったりすると、無駄な朝礼や会議とみられてしまいます。

三つ目には労働者の働く目的意識の変化があります。

朝礼で思い浮かぶのは、体育会系の企業の営業部において、朝、社是、社訓を皆で唱和し、前日の営業成績を発表して成績優秀者には拍手が起きる風景です。そして営業部員たちはその日の営業先に散らばっていきます。このような朝礼のやり取りが、同じフロアの他の会社にまで聞こえることがあります。ところが、このような企業に対して全面的に忠誠を誓うスタイルは、最近では好まれない傾向にあります。

時代の変化とともに仕事の仕方、内容も変化します。管理職は朝礼や会議については、通常は情報共有ツールを利用し、配慮が必要な社員に対してはこまめに進捗をオンラインで個別に確認するなどのマネジメントが必要です。ただし、朝礼や会議がメールでの報告だけで済む前提には、資料が要領良くまとまっている必要があります。

朝礼、会議やそのための資料それ自体が無駄なのではなく、時代の変化に対応していないことが問題なのです。

 

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122.「静かな解雇」というのもあります

3回前の記事で「静かな退職」について解説(119.「静かな退職」を放置しないで - 人事労務の「作法」)しましたが、一方「静かな解雇(Quiet Firing)」という現象も起きています。

静かな解雇とは、企業が従業員を正式な手続きを踏んで解雇するのではなく、自主的に退職するように仕向ける行為を指す言葉です。具体的な例としては、以下のようなものです。

・昇進の機会を与えない

・長期間昇給させない

・やりがいの無い仕事を与える

・社内コミュニケーションから排除する

また、静かな解雇のターゲットとなりやすいのは次のような人です。

・相対的に人件費が高く、その人件費に見合う成果が出ていない人

・仕事に対する意欲がなくモチベーションの低い人

・上司や会社の方針に従わない人

・育児や介護などの事情で勤務時間に制限がある人

企業が静かな解雇を行う背景には、やはり解雇という事態は避けたいという思惑があります。解雇が公になると企業の評判が低下する恐れがあります。そもそも、ターゲットとなりやすい人の特徴だけでは解雇に該当するような事象は見られず、無理やり解雇すると不当解雇を訴えられる危険性もあります。

かといって、静かな解雇を極端に実施すると、パワハラとして訴えられることもあります。静かな解雇は、厚生労働省が示すパワハラの6つの類型のうち、「精神的な攻撃」、「人間関係からの切り離し」、「過小な要求」に該当するでしょう。

それでも静かな解雇が注目されている理由の一つには、静かな退職の存在があります。もともと一部の日本企業では、静かな解雇のような行為は実践されていましたが、静かな退職の流行に伴い、企業側の対抗措置として静かな解雇が注目されるようになったわけです。

しかしながら、静かな解雇を実践することは、ターゲットとなっている人だけでなく、周りの従業員に対しても悪影響を及ぼします。自分も同じ目に遭うかもしれないという不安から、企業への信頼感やモチベーションが低下するでしょう。そして、企業への信頼を失った優秀な人材が見切りをつけ、離職する可能性が高まります。結果的に、企業の評判が悪くなり、新しい人材の採用も困難になるという悪循環に陥ります。

やはり、健全な企業運営のためには、正当なコミュニケーションを通じて、従業員と向き合うことが不可欠です。

 

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