人事労務の「作法」

企業の人事労務課題を的確に解決します

150.人事制度の構築(39) 確定拠出年金制度の組み立て

前回、退職一時金制度の組み立てについて説明しましたので、今回はもう一つの制度である確定拠出年金制度の組み立て方について考えます。

前回同様、退職金の総額を1500万円と想定し、退職一時金と確定拠出年金の構成比率を50対50とすれば、確定拠出年金で確保する金額は750万円となります。ただし、確定拠出年金は、受取額は確定せず、掛金(拠出額)のみが確定している制度ですので、受取額は従業員の運用成果次第で変動します。よって、制度設計上は、掛金を決定する基準と運用の目安である想定利回りを定め、その掛金を毎年想定利回り通りに運用できれば定年時に750万円に到達するように設計します。

先ず掛金を決定する基準については、退職一時金の場合は、勤続年数と社内等級に応じて金額を積み上げるシンプルな仕組みとしましたが、確定拠出年金の掛金は、社内等級とその等級内での人事評価結果に応じて金額が決定する仕組みとしましょう。

等級が上位になるほど、また、人事評価結果が上位のランクほど掛金の金額を大きくします。各等級と人事評価結果のランクごとの掛金一覧表を作成するのです。

次に、運用の目安となる想定利回りについてですが、最近では2%前後(1.5%~2.5%)とする例が多いようです。あまり高めに(例えば3%とか)設定すると、750万円に到達するために従業員が相応のリスクを取らざるを得なくなり、元本割れが起きることも考えられれます。逆に想定利回りを低く(例えば1%とか)設定すると、企業側の掛金負担が増えます

確定拠出年金も退職一時金同様に、管理職手前まで昇格する前提で、しかも標準的な人事評価結果(5段階評価の中位)を取り続けるモデルケースを設定し、掛金を想定利回り通り(例えば2%)で運用すれば定年時に750万円に達するように設計するのです。この辺りの設計にはコンサルの手が必要になるかもしれません。

制度設計が完了すれば、運営管理機関となる銀行や保険会社と契約し、運用商品を選定し、厚生労働省に提出する規約を作成し認可を得る必要がありますが、これは運営管理機関がサポートしてくれます。

重要なのは、従業員に対する投資教育を確実に行うことです。特に、資産運用の経験が浅い従業員が多い場合には、リスクコントロールの方法を重点的に、制度導入時だけでなく、定期的に継続教育を行うことが必要です。

 

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149.人事制度の構築(38) 退職一時金制度の組み立て

前回、退職一時金と確定拠出年金を組み合わせる際のポイントについて説明しました。今回は、退職一時金制度の具体的な組み立て方について説明します。

近年の調査では、退職金の額が20年前に比べて500万円以上減額しているようです。また、大企業と中小企業では退職金の金額に大きな差があるのも事実です。例えば大卒勤続35年で定年を迎えた場合、大企業では2200万円程度に対し、中小企業では1200万円程度といった統計もあります。

ここでは、仮に大卒勤続35年で退職金金額1500万円と想定した場合の退職一時金制度について考えます。

まず、退職金制度全体の構成は退職一時金と確定拠出年金の二階建てであり、その比率は50対50とすれば、退職一時金のみでは750万円という額になります。

一人一人の金額を算出する方法の一つとして、「退職時の基本給×支給乗率」というものがありますが、役職定年制を導入している場合は、定年時の基本給は役職定年前の額よりも減額していて、退職金にも影響しますので避けた方が良いでしょう。役職定年直前での退職者が増えるかもしれません。

また、自己都合退職の場合、支給率を6割~8割程度に引き下げるパターンもありますが、定年まで勤続することを企業が推奨しているようにも受け取られるため、雇用の流動化を目指すにはこれも避けたいところです。

結論としては、退職一時金制度はできるだけシンプルにし、従業員が自分で積みあがった金額が計算できる仕組みが良いでしょう。定年まで波風立てずに勤め上げることが得策だと言わんばかりの、定年間際にカーブが急騰するような制度は今の時代にはマッチしません。目標金額に達したら、起業したりリスキリングで新たな分野に挑戦することを後押しできる制度としたいものです。

具体的には、勤続年数と社内等級に応じて毎年金額を積み上げていく方式です。下のグラフは、この二つの要素に対応する金額を仮設定して積み上げたものです。


勤続による額は、一定の年数以上勤務すれば金額が若干増えるようにしています。等級による額は過去に示した複線型人事制度において、管理職手前まで昇格したと仮定して各等級ごとの金額を設定しています。

退職一時金は右肩上がりの単純なカーブで、安心感と納得感を与えるものが良いと考えます。

 

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148.人事制度の構築(37) 退職一時金と確定拠出年金の組み合わせ

前回、退職金制度の構成は、退職一時金と確定拠出型の退職年金「確定拠出年金(DC)」を組み合わせることを提案しました。今回は、二つの制度の組み合わせのポイントについて解説します。

先ず、退職年金部分を確定拠出年金とする理由は、退職年金が確定給付型「(確定給付年金(DB)」だと、運用環境悪化に伴う追加拠出のリスクを将来にわたって負い続けなければならないという企業側の事情があるからです。逆に従業員側から見ても、確定拠出年金の運用成果責任は負うことになるものの、中途退職が珍しくない現在においては、再就職先に持ち運び(ポータビリティ)ができる確定拠出年金は、特に若い世代から支持されています。

一方で、一定部分は退職一時金を残すことで、事前に確定した金額が一時金で支給される安心感を与えることができます。確定拠出年金は原則として60歳までは受け取りできませんが、退職一時金であれば退職時に受け取ることができるため、ローンの返済や脱サラしての開業資金に利用することもできます。

また、退職一時金には退職所得控除が適用され、例えば勤続30年であれば1500万円の退職所得控除が受けられるため、手取り額を増やすには有効な制度です。

次に、退職一時金と確定拠出年金の金額割合ですが、確定拠出年金は個人ごとの運用成果で受取額が変動しますのであくまでも一定の想定利回りを考慮した額での比較では、50対50をベースに退職一時金重視であれば70対30、確定拠出年金重視であれば30対70の範囲で、各企業の実情に合わせて決定することになるでしょう。

一般的には、従来退職一時金のみだった企業が確定拠出年金を導入する場合や、確定給付年金からの制度変更などに場合は退職一時金重視となるでしょう。また、新興企業などで初めて退職金制度を導入する場合などは、確定拠出年金重視でも良いでしょう。

どちらの場合も、そもそも退職金の総額をどの程度と考えるのかによっても組み立ては変わってきます。退職金を公的年金を補完する老後の生活支援と考えるのなら、相応の金額を確保する必要がありますが、賃金の後払いと考えれば、現役時代の賃金構成によって退職金の額は違ってきます。

前々回(145.人事制度の構築(35) 退職金も賃金の重要な一部です - 人事労務の「作法」)にも述べましたが、退職金も賃金の重要な一部ですので、月例給与や賞与だけでなく、各企業の考えをしっかりと反映した制度としましょう。

 

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147.人事制度の構築(36) 退職一時金と退職年金

前回に引き続き、退職一時金と退職年金について説明します。

退職一時金とは前回記載した通り、一般的には従業員が退職する際に一定の金額が会社から直接支給されるものです。金額の決定の仕組みは、退職時点の基本給額に勤続年数に応じた係数を乗じて決定するものや、役職や社内等級に応じたポイントを毎年積み上げて、退職時のポイント総数に別に定めたポイント単価を乗じて決定するものなど様々です。退職理由が会社都合か自己都合かによって支給額を変えることも可能です。総じて、勤続年数が長いほど、役職や社内等級が高いほど金額が大きくなる傾向にあります。

また、早期退職制度(いわゆるリストラ)を実行する際に、年収の何年か分を上乗せして支給するのも退職一時金に該当します。

一方、退職年金は、一般的には退職金の原資となる掛金を社外の金融機関等に積み立てて運用し、退職後に年金資産を分割して受け取る仕組みのものです。受け取り方法は規約によって定められ、10年分割や20年分割、あるいは終身年金として受け取る設定も可能です。年金として分割しての受け取りに代えて、一括で受け取ることも規約で定めれば可能となります。

退職年金には確定給付型と確定拠出型の制度が存在します。

確定給付型は、退職一時金のように、勤続年数や基本給額、役職などの要素に応じて支給額を決定するものですが、その原資は金融機関に積み立てる掛金に一定の運用益を見込んで計算されます。仮に運用環境が悪い場合は、不足する額を企業が追加で補填しなければなりません。

一方、確定拠出型は、勤続年数や役職などに応じて一人一人の掛金を決定し、その掛金を基に運用は従業員自身が行うものです。支給額は従業員の運用成果次第で、仮に運用に失敗しても会社からの補填はありません

このような特徴のある退職一時金と退職年金ですが、では、どのような制度を設けるのが良いかについては、それぞれの制度のメリット、デメリットを考慮することが良いでしょう。

退職一時金は制度の組み立ての自由度がありますが、支払いが集中すると資金繰りや損益が悪化します。退職年金は費用化を分散できますが、確定給付型は運用環境が悪いときに追加の負担が発生し、確定拠出型は従業員が上手く運用できるか不安です。

結論としては、退職一時金と確定拠出型の退職年金を組合わせることを筆者は提案します。

次回、提案内容を具体的に示します。

 

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146.労働時間規制緩和は実現するか

高市政権発足後掲げた「労働時間規制の緩和」の是非が議論になっています。そんな中、気になる記事を見つけました。

労働基準法32条では労働時間の上限を1日8時間、1週40時間と定めていますが、この時間を超えて労働させるには、同法36条による労使による協定(いわゆる36協定)を締結する必要があります。ところが、この協定を締結している企業の割合が49.7%に留まっているというものです。つまりは、この調査をそのまま受け取れば、約半数の企業は残業が発生していないということになります。

2018年の働き方改革関連法改正前は、36協定で「特別条項」を設ければ上限なしで残業が可能であったところ、法改正後は特別条項があっても月100時間未満、年720時間までとする制限が設けられました。この制限が「労働時間規制」であり、この規制を緩和するかどうかがテーマのはずです。もし、半数の企業が本当に残業が発生していないのなら、規制する必要も緩和する必要もないわけです。

どうやら、今、是非を議論されている労働時間規制の緩和は、人によって解釈が異なっているため、賛否両論出ているのでしょう。

もともと、高市総理が答弁で説明していた「収入を増やしたいのに規制があるため残業できない人がいる」という発言の趣旨は、働く意欲がある人の選択肢を広げるための「働きたい改革」だとされています。特別条項の制限を法改正前の状態に撤廃するような話ではないでしょう。ただ、例示した「収入を増やしたいのに残業できない」という現象は、パート労働者の年収の壁の制約のように聞こえるため真意が伝わり難くなっています。

一方、労働者側から見れば特別条項の制限を撤廃するような受け取り方をしているため、過労死を助長することにもなりかねず、使用者側の「働かせたい改革」だと批判されているのです。

過去の記事(142.年収の壁引き上げの次は労働時間規制緩和を期待します - 人事労務の「作法」)にも記載しましたが、日本企業の労働生産性を高めるため、それと国際的な競争力を確保するためには、労働者の意欲を活用しイノベーションを促進することが不可欠です。そのためには、労働者が自身の成長を願って意欲的に働くことができる仕組みづくりが必要だと考えます。その仕組みが用意できれば労働時間規制の問題は自ずと解決するような気がします。

 

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145.人事制度の構築(35) 退職金も賃金の重要な一部です

人事制度を構成する三つの要素(等級制度、評価制度、賃金制度)のうち、最後の賃金制度についての説明の途中でしたが、前回までで賃金制度の中の月例給与と賞与について解説は一通り終了しています。今回は残りの退職金について考えます。

退職金の支給は義務ではありませんが、現在では約75%の企業で支給されているようです。退職金は、公的年金だけでは不足する老後の生活支援と、賃金の一部の支払いを保留する賃金の後払いを目的としています。つまりは、企業が従業員に対して長期間勤務することを推奨する狙いがありました。

しかしながら、終身雇用が崩壊しつつある現在、若い世代を中心に定年まで継続勤務する前提ではなくなってきていることと、昨今の賃金アップによって人件費負担が増え、賃金の後払いである退職金の考え方にも変化が見え始めています。退職金を廃止し、将来よりも今の賃金に反映する企業も存在するでしょう。

とはいえ、中高年従業員にとっては、住宅ローンの負担や子供の教育費、親の介護費用、更には自身の老後の生活資金など近い将来の経済的負担に対して、まとまった金額が期待できる退職金は魅力的です。また、若い世代にも就職先企業を選ぶ基準の一つに福利厚生制度の充実を挙げる人も高い割合で存在することから、退職金の存在はアピールポイントとなります。退職金も賃金の重要な一部です。

それではどのような退職金制度を構築するのが良いかですが、まず、一般的な退職金の種類について説明します。

通常、退職金は「退職一時金」と「退職年金」に分かれます。

退職一時金とは、従業員が退職する際に規程に定められた金額が会社から直接一時金で支給されるものです。支給原資は外部積立ではなく、資金繰りの範囲で賄われます。また、税務上は支給した事業年度の損金となります。一度に何人も退職すると、資金繰りと損益が悪化します。

一方、退職年金とは企業年金とも呼ばれ、法令の制約を受けつつ、税制上の優遇措置を受けられる制度です。一定期間(あるいは生涯)、分割して受け取る年金の仕組みです。一般的には「確定給付型」の制度と「確定拠出型」の制度が存在します。原資は外部の金融機関に積立し、掛金は毎期損金算入されるため、企業の負担は平準化されます。

次回、退職一時金と退職年金についてさらに詳しく解説します。

 

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144.受援力を身に付けましょう

2026年がスタートしました。年末年始9連休のあと、今日が仕事始めという人も多いかと思います。

年末年始に限らず、休みが続いた後、翌日からの仕事のことを考えると、何となく憂鬱になるものです。特に初日が月曜日の場合はなおさらです。

このような症状が出る原因は、仕事がしたくないという拒否反応ではありません。休みの間、緩んでいた緊張が再び張り詰める前の自然な反応なのでしょう。自身の仕事で求められる成果、責任、プレッシャーなどが一気に押し寄せるのでしょう。

もともと、日本人は責任感が強く、自分の仕事を他の人に手伝ってもらうことが苦手な気質を持っています。そのような気質が、休み明けの憂鬱感をさらに強めているのです。

そこで、現在のビジネスパーソンに身に付けてもらいたい能力の一つに「受援力」というものがあります。受援力とはもともと「災害時などに支援を受ける、受け入れる力」という意味で防災用語として使われてきた言葉です。2011年の震災以降、支援を効果的に受け入れる手段として注目されています。

そして今、企業においても、困ったときに「手伝って」とか「助けて」とお互いに遠慮なく言える関係性の構築が求められています。コロナ禍以降、リモートワークの進展により、社内における偶発的なコミュニケーションが減少し、成果主義の拡大により他人の仕事ぶりなど気にしていられない状況が見られます。

その結果、誰にも相談できずに精神的に追い詰められてメンタル不調に陥ったり、一人で抱え込んで取引先企業に対して自社の信用を損なう事態も引き起こしかねません。

受援力を発揮することで、お互いに頼り合い、組織のパフォーマンスが向上し、個々人の能力の総和以上の成果が得られるといわれています。ただしその前提には、Google社が示したように、「心理的安全性」を担保する必要があります。心理的安全性が担保されるのは「一人一人が自分らしく働いている状態」、「安心して何でも言い合える状態」、「否定されないと感じる状態」のことです。

心理的安全性を高めるのは管理職のマネジメントによるところが大きいでしょう。リモートワークが中心であっても、成果主義を徹底していても、部下に対して押し付けではないコミュニケーションを心掛け、心理的安全性を高める工夫をしてください。

次の休み明けには憂鬱感が少し軽減するかもしれません。

 

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