人事労務の「作法」

企業の人事労務課題を的確に解決します

171.労使間トラブルを防止するための就業規則の定め方(第2章 採用・異動等)②

〔第2章採用・異動等〕のうち、第1節採用について前回の続きです。

今回は採用に関して一番トラブルとなりがちな試用期間の規定について解説します。試用期間とは応募書類や面接などでは見極めきれなかった適性や能力を、一定期間働いてもらって本採用するかどうかを判断するための期間です。

試用期間中は「解雇権留保付労働契約」を締結した状態で、本採用拒否は通常の解雇よりも広い範囲において認められていますが、社会通念上相当な理由が無ければ解雇権の濫用とみなされて、本採用拒否は無効となります。それだけに、規定の定め方については注意が必要です。

 

第〇条(試用期間)

社員として採用した者は、採用した日から〇ヶ月間を試用期間とする。

2 第1項に関わらず、当該社員の能力、経験等が優れていると会社が認めた者については、試用期間を短縮又は免除することがある。

3 第1項の期間中に、当該社員の適性を判断することが困難な場合、第1項の期間を通算して〇ヶ月間まで試用期間を延長することができる。

4 試用期間は、勤続年数に加算する。

 

第1項については、期間が短すぎると本採用の可否を判断するのに十分でなく、逆に長すぎると合理性を欠きますので、一般的には3ヶ月~6ヶ月間くらいが適切でしょう。

第2項では、採用時に間違いなく優秀であると判断できる者については、他社に先駆けて入社の意思表示を得るために、試用期間の短縮や免除の措置を設けておきましょう。ただし、一定の基準は必要で、採用選考時のチェックリストで一定の点数以上とか、一定のランク以上とかの基準を確認しておくと良いでしょう。

第3項では、試用期間中に本採用の可否を判断する事象が不足したような場合、例えば営業職などで担当する取引先の倒産などの不可抗力があり、思ったような成果が得られなかった場合などに備え、試用期間を延長できる項目も設けておきましょう。

このような例の他、一番憂慮すべきなのは体調不良の兆候があった場合です。特に精神的な不調は短期間で現れるとは限らず、試用期間が満了して本採用した後に顕在化することもあります。試用期間中に気になる兆候などがあれば、事情を確認し、必要に応じて専門医の受診を促すとともに試用期間を延長して様子を見て、専門医や産業医の意見を参考に本採用の可否を判断する場面が出てくることもあります。ただし、延長できる期間は通常の試用期間を含めて6ヶ月~1年間が限度でしょう。

次回は試用期間中、あるいは試用期間満了後に本採用を取り消す際の規定について解説します。

 

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170.労使間トラブルを防止するための就業規則の定め方(第2章 採用・異動等)①

今回からは、労使間トラブルを防止するための就業規則〔第2章 採用・異動等〕について解説します。

採用・異動等のカテゴリーには、採用の他、異動等の内訳として①所属・職務の異動、②昇進・昇格および解任・降格、③出向・転籍、④休職・復職があります。これらを第1節、第2節と分けて記載すると分かりやすいでしょう。

先ず第1節として採用について記載します。

第2章 採用・異動等

第1節 採用

・第〇条(採用手続)

会社は採用選考試験を行い、これに合格した者を社員として採用する。

 

具体的な選考試験の内容、合格基準等については、正社員、契約社員、パートタイム社員等別に「採用選考基準」のような別規程を設けて運用するのが良いでしょう。その際に、正社員、契約社員、パートタイム社員等の雇用区分の違いを明確にしてください。

 

・第〇条(採用時の提出書類)

社員として採用された者は、採用された日から〇日以内に次の書類等を提出しなければならない。

2 前項により提出した書類等の情報に変更が生じた場合は、速やかに所定の届を会社に提出しなければならない。

 

この条は各社の事情に合わせて必要な書類等を列挙してください。

一般的には、履歴書、住民票記載事項証明書、マイナンバーカード、社会保険加入に必要な情報として年金手帳、雇用保険被保険者証、給与支払いに必要な情報として扶養控除等異動申告書、前職の源泉徴収票、給与振込口座届、その他には雇入時健康診断結果、誓約書、身元保証書、保有資格の資格証などですが、あまり細かく記載すると限定されてしまいますので、最低限の内容にとどめ、「その他会社が指定するもの」という一文を追加しておくのが良いでしょう。具体的には個人ごとに「提出書類一覧」を示して通知します。

そしてこれらの情報のうち、現住所や家族情報、資格取得情報等は、通勤手当や扶養控除、各種手当などの給与計算や、社会保険の被扶養者の資格得喪に関係しますので、変更が生じた場合には速やかに届け出させる必要があります。

 

・第〇条(個人情報の利用目的)

会社に提出されたマイナンバーの情報は、会社が税務上及び社会保障上の手続き、その他法令で認められた手続きの目的のみに利用し、その他の情報は人事異動、賃金の決定、教育訓練、健康管理その他人事管理上必要な手続きの目的に利用する。

 

個人情報の利用目的、特にマイナンバー情報の利用目的は限定して通知する必要がありますので、就業規則に明記しておくと良いでしょう。

 

次回はこの続きを解説します。

 

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169.在宅勤務制度は新たなフェーズに

コロナ禍で急速に広まった在宅勤務制度ですが、最近では当初の目的からの変遷が見られます。

総務省の統計では、在宅勤務制度を導入している企業の割合がコロナ禍のピークからは下がっているものの、直近では50.1%と半数を超え、前の年よりも増えているという結果がありました。つまり、業種や職種にもよりますが、在宅勤務の制度としては維持しつつ、出社と在宅を組み合わせたハイブリッドな仕組みの中で、出社の頻度を増やしているパターンが多いのでしょう。

そのような中、今週は在宅勤務を利用した人が多かったのではないでしょうか。

今週、日本各地で起きている大きな地震や、25日(木)~26日(金)にかけての西日本への台風接近、更には26日(金)の朝のサッカーワールドカップのスウェーデン戦がその理由です。在宅でのサッカー観戦は業務時間とはなりませんが、地震や台風などの自然災害時に在宅勤務を利用できる仕組みを用意しておくことは非常に重要です。

ただし、制度を用意していても、いざというときに利用できないと会社の責任を問われる事象も起き得ます。

例えば今回のような台風時に、暴風雨や交通機関の運休等が見込まれる中、どうしても出社しなければならない理由が無いにもかかわらず出社を強要したり、在宅勤務の申請期限(前日までに申請とか)を過ぎているので認めなかったり、あるいは時差出勤や在宅勤務の積極活用などの注意喚起を会社が行わなかった場合で、実際に社員が転倒などの事故に遭遇すれば、会社が安全配慮義務違反を問われる可能性があります。

これは別に在宅勤務の制度がなくても同じことですが、制度があればなおさら事故を回避できる可能性が高かったとして、責任の程度が違ってきます。

コロナ禍での緊急対応から始まった在宅勤務は、移動時間の削減やワークライフバランスの向上といった生産性の向上に寄与する施策としての第1フェーズ、一方でコミュニケーション不足によるメンタル不調者の増加や、偶発的な対面での会話から生まれるイノベーションの欠如が不安視され出社頻度を増やした第2フェーズ、人材不足の折、新たな人材を確保し、人材の流出を防止する目的での福利厚生として姿を変えた第3フェーズへと推移しています。

そして今、混沌とした世界情勢の中で、自然災害にも頻繁に遭遇する日本においては、企業と労働者を守るための盾となるフェーズを迎えているのでしょう。

 

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168.労使間トラブルを防止するための就業規則の定め方(第1章 総則)

直近2回の投稿で、就業規則を定める際の基本的注意事項を解説しました。今回からは具体的な就業規則の内容について考察します。

前回も記載しましたが、就業規則で明文化する順番は任意ですが、採用から退職に至る流れを章立てて記載すると分かりやすいでしょう。ここでは、厚生労働省が開示している「モデル就業規則」(001620507.pdf)に沿って章を組み立てることとし、重要な規程についてはその例文と解説を示します。また、これもすでに記載しましたが、サンプルとする就業規則を参考にしつつも、企業規模や業種特性に応じて適切にアレンジすることが重要です。

先ずは第1章で総則として、目的や適用範囲を定めます。あまり細かく記載せず簡潔に記載するのが良いでしょう。

 

第1章 総則

・第〇条(目的)

この規則は、株式会社〇〇(以下「会社」)の労働者の労働条件、服務規律等、就業に関する事項を定める。

・第〇条(適用範囲)

この規則は会社の正社員(以下「社員」)について適用する。契約社員、パートタイム社員等、社員以外の雇用区分の労働者の就業に関する事項については別に定める。

・第〇条(規則の遵守)

会社及び社員はこの規則を遵守しなければならない。

 

最低限必要な事項を記載すると上記の通りです。

「目的」の条についてさらに追記するとすれば、「この規則に定めがない事項については、労働基準法他法令の定めるところによる。」ですが、記載がなくても当然の事項であり、更にはどのような法令が関係してくるかも想定し得ないので、あえて記載しない方が良いと考えています。

また、「適用範囲」の条については、契約社員やパートタイム社員については、労働条件の違いを想定し、同じ規程の中で使い分けるのではなく、別に定めた方が良いという趣旨です。

ただし、正社員、契約社員、パートタイム社員等の定義については明確にする必要があります。これを「適用範囲」の条で定義すると趣旨が曖昧になりますので、ここでは触れていません。少なくとも労働者自身が自分が正社員なのか、契約社員なのかパートタイム社員なのかは労働条件通知書で明記し、適用される就業規則も提示するようにしましょう。

以上が就業規則の〔第1章 総則〕に関する定め方の一例です。次回は〔第2章 採用・異動〕について考察します。

 

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167.労使間トラブルを防止するための就業規則の定め方(はじめに②)

前回、就業規則を定める際の基本的な事項について解説しました。今回はそれらの基本的な事項を踏まえたうえで、具体的に明文化する際の注意点について解説します。

 

就業規則を作成・運用する際は、以下の4つの点に留意する必要があります。

1. 法令の基準を遵守すること
就業規則の内容は、常に法令に合致していなければなりません。「年俸制だから残業代は支払わなくてよい」とか、「パートタイム労働者には有給休暇は不要である」といった誤った認識で規定を設けても、法令に反する部分は無効となり、自動的に法令の基準が適用されます。また、法令は定期的に改正されるため、作成時に適法であっても、法改正によって基準が変更になることがあります。したがって、毎年最新の法改正情報を把握し、必要に応じて就業規則をアップデートしていく体制が不可欠です。

2. 自社の実態に即した内容にすること
就業規則を一から作成する際、厚生労働省の「モデル就業規則」などのサンプルを参考にすることが多くあります。しかし、これらをそのまま自社に適用するのではなく、自社の実態に合わせてカスタマイズしなければなりません。特に、業種・業態や企業規模などを十分に考慮し、自社に最適なサンプルを見極めて取り入れることが重要です。

3. 確実に遵守できる「最低限の基準」を規定すること
対外的なアピール(先進性の誇示など)を目的に、「週休3日制」や「法令の2倍の有給休暇付与」といった手厚い規定を設けること自体は自由です。しかし、これが遵守されなければ規程違反となります。後から運用の難しさに気づき、「週休2日制」や「法令通りの日数」に戻そうとしても、これは労働者に対する「労働条件の不利益変更」にあたり、原則として認められません。まずは無理なく守れる基準を規定することが鉄則です。

4. 曖昧な表現を排除し具体的に記載すること
例えば、試用期間中の解雇(本採用の見送り)事由について、「社員として不適格と認めた場合は本採用を取り消す」といった抽象的な規定だけでは、具体的にどのような状態が不適格なのかが不明確です。トラブルを防止するためには、不適格と判断する具体的な要件(勤怠不良、業務指示の拒否など)を列挙し、どの事由に該当するのかを客観的に示せるようにしておく必要があります。

 

明文化する順番は任意ですが、一般的には採用、服務、労働時間、休暇、賃金、退職・解雇、安全衛生、表彰・懲戒といった入社から退職までの流れに沿った配置が分かりやすいでしょう。次回以降具体的な規程の内容について示します。

 

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166.労使間トラブルを防止するための就業規則の定め方(はじめに①)

就業規則とは、労働時間、休暇、賃金などの労働条件や、その職場で働く上で守るべき服務規律などを定めたものです。
常時10人以上の労働者を雇用する事業場においては、就業規則を作成し管轄の労働基準監督署に届け出ることが必要です。これは労働基準法第89条に定められた義務ですので、人事労務に従事する方にとっては当然のこととして認識されているかと思います。
しかしながら、就業規則を定めていても、必要事項が漏れていたり、表現が曖昧だったりした場合、労使間でのトラブルに発展するケースも少なくありません。
そこで今回からは、労使間でのトラブルを生じさせない就業規則の定め方について複数回にわたって考えてみます。

 

就業規則の作成

就業規則には「絶対的必要記載事項」として、必ず定めなければならない項目があります。また、制度を設けている場合には、その内容を記載しなければならない「相対的必要記載事項」もあります。

絶対的必要記載事項
 ①労働時間について
  ・始業及び終業の時刻
  ・休憩時間
  ・休日
  ・休暇(年次有給休暇を含む)
  ・交替制の場合は就業時転換に関する事項
 ②賃金について
  ・賃金の決定方法
  ・計算方法
  ・支払方法
  ・締切日及び支払日
  ・昇給に関する事項
 ③退職について 
  ・退職に関する事項(解雇の事由を含む)

相対的必要記載事項
  ・退職手当に関する事項
  ・臨時の賃金(賞与など)、最低賃金額に関する事項
  ・食事、作業用品、社宅などの費用負担に関する事項
  ・安全衛生に関する事項
  ・職業訓練に関する事項
  ・災害補償、業務外の傷病扶助に関する事項
  ・表彰、制裁に関する事項
  ・その他、すべての労働者に適用される事項

 

就業規則の届出

就業規則は会社主導で作成してよいのですが、労使双方が守るべきものであり、その内容を労働者が全く知らないということがないように、就業規則の作成の際は、事業場における過半数労働組合または労働者の過半数代表者の意見を聴くことが義務づけられています。そして、過半数労働組合等の意見を聴いた証として「意見書」を添付する必要があります。ただし、その意見の内容は問いません。

一般的には2部作成し、1部は提出用、もう1部は受領印をもらって控えとしましょう。

 

就業規則の周知

作成・届出した就業規則は、各事業場の見やすい場所への掲示、備え付け、書面の交付などによって労働者に周知しなければなりません。社長が金庫に保管しておいたのでは周知したことになりません。

 

以上は就業規則を定める際の基本的な事項です。労使トラブルを防止するための最低限の条件ですが、重要なのはその内容です。次回はさらに掘り下げて解説します。

 

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165.退職金制度の近代化に向けて

大企業を中心に退職金制度を見直す企業が増えています。

退職金制度がある企業の割合は75%程度ですが、大企業ほど導入率が高いことから、見直しを行うのも大企業中心です。また、退職金は終身雇用を前提とした古くからの制度を継続してきた経緯から、昨今の大企業における賃上げに伴う人事給与制度改定の範疇外となることが多く、最近ようやく見直しの機運が高まってきたのでしょう。

しかし、過去の投稿(145.人事制度の構築(35) 退職金も賃金の重要な一部です - 人事労務の「作法」)に記載した通り、退職金も賃金の重要な一部と考えますので、単純に賃上げ原資を確保するために退職金の支給水準を引き下げるといった、安易な制度見直しは避けるべきです。

大手総合商社の子会社でも、「退職一時金廃止」という見出しでニュースになっていました。一見、退職金制度を廃止したかのように思えますが、内容を見ると、従来「退職一時金」、「確定拠出年金」、「確定給付年金」が3分の1ずつの3層になっていたところを、退職一時金を廃止し、賃上げ原資と確定拠出年金の掛金に振り分けたというものです。非常に合理的な改定でしょう。

筆者が提案する退職金制度の構成は、(148.人事制度の構築(37) 退職一時金と確定拠出年金の組み合わせ - 人事労務の「作法」)に記載した通り、給付額が確定している部分と個人の運用成果次第で変動する部分の組み合わせが良いと考えています。

ニュースになっていた企業では退職一時金と確定給付年金で給付が確定している部分が重複していることから、一方を無くすという選択は賢明でしょう。

企業業績が好調で、賃上げできる環境が整っている大企業ならば、今まで手を付けられなかった古い退職金制度を見直す良い機会でしょう。賃金の後払いではなく、企業独自の考え方を反映した退職金制度に近代化させるチャンスです。

ただし、往々にして退職金制度の改定で一番不利益を被りがちなのは、定年間際の高齢者です。制度改定には各年代別に丁寧な説明と、経過措置等を設けることが必須です。この企業でも退職一時金を廃止しても、過去勤務部分については退職時に一時金で支給したり、確定拠出年金の掛金の割引率を考慮したりなどの対策を講じたようです。

入社する企業を選択する基準や働き方が多様化する今、社員を処遇する総合的な仕組みの一部分として、大企業に限らず中小企業においても、退職金制度を近代化させる良い機会なのかもしれません。

 

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