人事労務の「作法」

企業の人事労務課題を的確に解決します

147.人事制度の構築(36) 退職一時金と退職年金

前回に引き続き、退職一時金と退職年金について説明します。

退職一時金とは前回記載した通り、一般的には従業員が退職する際に一定の金額が会社から直接支給されるものです。金額の決定の仕組みは、退職時点の基本給額に勤続年数に応じた係数を乗じて決定するものや、役職や社内等級に応じたポイントを毎年積み上げて、退職時のポイント総数に別に定めたポイント単価を乗じて決定するものなど様々です。退職理由が会社都合か自己都合かによって支給額を変えることも可能です。総じて、勤続年数が長いほど、役職や社内等級が高いほど金額が大きくなる傾向にあります。

また、早期退職制度(いわゆるリストラ)を実行する際に、年収の何年か分を上乗せして支給するのも退職一時金に該当します。

一方、退職年金は、一般的には退職金の原資となる掛金を社外の金融機関等に積み立てて運用し、退職後に年金資産を分割して受け取る仕組みのものです。受け取り方法は規約によって定められ、10年分割や20年分割、あるいは終身年金として受け取る設定も可能です。年金として分割しての受け取りに代えて、一括で受け取ることも規約で定めれば可能となります。

退職年金には確定給付型と確定拠出型の制度が存在します。

確定給付型は、退職一時金のように、勤続年数や基本給額、役職などの要素に応じて支給額を決定するものですが、その原資は金融機関に積み立てる掛金に一定の運用益を見込んで計算されます。仮に運用環境が悪い場合は、不足する額を企業が追加で補填しなければなりません。

一方、確定拠出型は、勤続年数や役職などに応じて一人一人の掛金を決定し、その掛金を基に運用は従業員自身が行うものです。支給額は従業員の運用成果次第で、仮に運用に失敗しても会社からの補填はありません

このような特徴のある退職一時金と退職年金ですが、では、どのような制度を設けるのが良いかについては、それぞれの制度のメリット、デメリットを考慮することが良いでしょう。

退職一時金は制度の組み立ての自由度がありますが、支払いが集中すると資金繰りや損益が悪化します。退職年金は費用化を分散できますが、確定給付型は運用環境が悪いときに追加の負担が発生し、確定拠出型は従業員が上手く運用できるか不安です。

結論としては、退職一時金と確定拠出型の退職年金を組合わせることを筆者は提案します。

次回、提案内容を具体的に示します。

 

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146.労働時間規制緩和は実現するか

高市政権発足後掲げた「労働時間規制の緩和」の是非が議論になっています。そんな中、気になる記事を見つけました。

労働基準法32条では労働時間の上限を1日8時間、1週40時間と定めていますが、この時間を超えて労働させるには、同法36条による労使による協定(いわゆる36協定)を締結する必要があります。ところが、この協定を締結している企業の割合が49.7%に留まっているというものです。つまりは、この調査をそのまま受け取れば、約半数の企業は残業が発生していないということになります。

2018年の働き方改革関連法改正前は、36協定で「特別条項」を設ければ上限なしで残業が可能であったところ、法改正後は特別条項があっても月100時間未満、年720時間までとする制限が設けられました。この制限が「労働時間規制」であり、この規制を緩和するかどうかがテーマのはずです。もし、半数の企業が本当に残業が発生していないのなら、規制する必要も緩和する必要もないわけです。

どうやら、今、是非を議論されている労働時間規制の緩和は、人によって解釈が異なっているため、賛否両論出ているのでしょう。

もともと、高市総理が答弁で説明していた「収入を増やしたいのに規制があるため残業できない人がいる」という発言の趣旨は、働く意欲がある人の選択肢を広げるための「働きたい改革」だとされています。特別条項の制限を法改正前の状態に撤廃するような話ではないでしょう。ただ、例示した「収入を増やしたいのに残業できない」という現象は、パート労働者の年収の壁の制約のように聞こえるため真意が伝わり難くなっています。

一方、労働者側から見れば特別条項の制限を撤廃するような受け取り方をしているため、過労死を助長することにもなりかねず、使用者側の「働かせたい改革」だと批判されているのです。

過去の記事(142.年収の壁引き上げの次は労働時間規制緩和を期待します - 人事労務の「作法」)にも記載しましたが、日本企業の労働生産性を高めるため、それと国際的な競争力を確保するためには、労働者の意欲を活用しイノベーションを促進することが不可欠です。そのためには、労働者が自身の成長を願って意欲的に働くことができる仕組みづくりが必要だと考えます。その仕組みが用意できれば労働時間規制の問題は自ずと解決するような気がします。

 

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145.人事制度の構築(35) 退職金も賃金の重要な一部です

人事制度を構成する三つの要素(等級制度、評価制度、賃金制度)のうち、最後の賃金制度についての説明の途中でしたが、前回までで賃金制度の中の月例給与と賞与について解説は一通り終了しています。今回は残りの退職金について考えます。

退職金の支給は義務ではありませんが、現在では約75%の企業で支給されているようです。退職金は、公的年金だけでは不足する老後の生活支援と、賃金の一部の支払いを保留する賃金の後払いを目的としています。つまりは、企業が従業員に対して長期間勤務することを推奨する狙いがありました。

しかしながら、終身雇用が崩壊しつつある現在、若い世代を中心に定年まで継続勤務する前提ではなくなってきていることと、昨今の賃金アップによって人件費負担が増え、賃金の後払いである退職金の考え方にも変化が見え始めています。退職金を廃止し、将来よりも今の賃金に反映する企業も存在するでしょう。

とはいえ、中高年従業員にとっては、住宅ローンの負担や子供の教育費、親の介護費用、更には自身の老後の生活資金など近い将来の経済的負担に対して、まとまった金額が期待できる退職金は魅力的です。また、若い世代にも就職先企業を選ぶ基準の一つに福利厚生制度の充実を挙げる人も高い割合で存在することから、退職金の存在はアピールポイントとなります。退職金も賃金の重要な一部です。

それではどのような退職金制度を構築するのが良いかですが、まず、一般的な退職金の種類について説明します。

通常、退職金は「退職一時金」と「退職年金」に分かれます。

退職一時金とは、従業員が退職する際に規程に定められた金額が会社から直接一時金で支給されるものです。支給原資は外部積立ではなく、資金繰りの範囲で賄われます。また、税務上は支給した事業年度の損金となります。一度に何人も退職すると、資金繰りと損益が悪化します。

一方、退職年金とは企業年金とも呼ばれ、法令の制約を受けつつ、税制上の優遇措置を受けられる制度です。一定期間(あるいは生涯)、分割して受け取る年金の仕組みです。一般的には「確定給付型」の制度と「確定拠出型」の制度が存在します。原資は外部の金融機関に積立し、掛金は毎期損金算入されるため、企業の負担は平準化されます。

次回、退職一時金と退職年金についてさらに詳しく解説します。

 

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144.受援力を身に付けましょう

2026年がスタートしました。年末年始9連休のあと、今日が仕事始めという人も多いかと思います。

年末年始に限らず、休みが続いた後、翌日からの仕事のことを考えると、何となく憂鬱になるものです。特に初日が月曜日の場合はなおさらです。

このような症状が出る原因は、仕事がしたくないという拒否反応ではありません。休みの間、緩んでいた緊張が再び張り詰める前の自然な反応なのでしょう。自身の仕事で求められる成果、責任、プレッシャーなどが一気に押し寄せるのでしょう。

もともと、日本人は責任感が強く、自分の仕事を他の人に手伝ってもらうことが苦手な気質を持っています。そのような気質が、休み明けの憂鬱感をさらに強めているのです。

そこで、現在のビジネスパーソンに身に付けてもらいたい能力の一つに「受援力」というものがあります。受援力とはもともと「災害時などに支援を受ける、受け入れる力」という意味で防災用語として使われてきた言葉です。2011年の震災以降、支援を効果的に受け入れる手段として注目されています。

そして今、企業においても、困ったときに「手伝って」とか「助けて」とお互いに遠慮なく言える関係性の構築が求められています。コロナ禍以降、リモートワークの進展により、社内における偶発的なコミュニケーションが減少し、成果主義の拡大により他人の仕事ぶりなど気にしていられない状況が見られます。

その結果、誰にも相談できずに精神的に追い詰められてメンタル不調に陥ったり、一人で抱え込んで取引先企業に対して自社の信用を損なう事態も引き起こしかねません。

受援力を発揮することで、お互いに頼り合い、組織のパフォーマンスが向上し、個々人の能力の総和以上の成果が得られるといわれています。ただしその前提には、Google社が示したように、「心理的安全性」を担保する必要があります。心理的安全性が担保されるのは「一人一人が自分らしく働いている状態」、「安心して何でも言い合える状態」、「否定されないと感じる状態」のことです。

心理的安全性を高めるのは管理職のマネジメントによるところが大きいでしょう。リモートワークが中心であっても、成果主義を徹底していても、部下に対して押し付けではないコミュニケーションを心掛け、心理的安全性を高める工夫をしてください。

次の休み明けには憂鬱感が少し軽減するかもしれません。

 

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143.今年も無事年末を迎えました

2025年も残すところあと数日となりました。今年も何とか週1回のペースでこのブログを更新することができ、安堵しています。

昨年末の投稿を読み返してみると、今年はブログ内容の充実とデザインの一新を目標に掲げていました。

内容については、今まで通り社会で注目されている話題を人事労務面から切り取って解説したほかに、「メンタルヘルス不調からの復職対応」や「労働基準監督署による調査対応」などのテーマについては、複数回にわたって体系立てて解説することができました。ただ、「人事制度の構築」については最終段階のまとめができないまま年越しとなります。来年には一定の方向性を示して収束させたいと考えています。

一方、デザインはパソコン画面のテンプレートを変更する程度に留まり、あまり代り映えしていません。もう少し研究します。

2026年は高市政権が本格稼働し、労働法制にも影響が出るような予感がします。しかし、どのような労働環境になろうとも、企業とそこで働く労働者の関係性を良好に保ち、双方がともに成長発展できる体制を構築することが、人事労務が果たすべき最大の使命であると筆者は考えます。今後も、そのための「作法」を追求して参ります。

今年も最後までご覧いただきありがとうございます。

来年も情報発信を継続する所存ですので、少しでも皆さまのお役に立てれば幸いです。

来年もよろしくお願いいたします。

 

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142.年収の壁引き上げの次は労働時間規制緩和を期待します

年収の壁が2026年から178万円に引き上げられることが決定しました。当初、自民党はやや慎重な姿勢でしたが、国民民主党の「手取りを増やす」という主張に押し切られた形となりました。

過去の記事(085.「年収の壁」は103万円だけではありません - 人事労務の「作法」)にも記載しましたが、年収の壁は何段階もあり、今回引き上げられたのは、従来103万円だった給与所得者本人が所得税を負担しなければならない基準のことです。2026年からは、年収178万円までは基礎控除と給与所得控除の合計で全額控除されてしまい、所得税の負担がなくなるという仕組みです。

今回の議論で注目されたのは、冒頭に記載した「手取りを増やす」ということです。例えば、年収600万円程度の人は、2025年の減税と合わせると、103万円当時に比べ約5.6万円の減税になります。(2025年は年収の壁が160万円に設定されています)

しかし、もう一つ注目すべきなのは、パート勤務などで働く専業主婦(主夫)等が、働き控えをすることなく178万円まで収入を得ても、配偶者の所得から配偶者控除が全額受けられるということです。

働き控えで思いつくのは、今年の流行語大賞にも選ばれた、高市総理の「働いて働いて・・・」という言葉です。この言葉の直後には世間の反発もありましたが、意図するところは、長時間労働を推奨するわけではなく、働きたい人が年収の壁の影響で働き控えをすることなく働ける環境を作るということにあるようです。これが本意なのか答弁用の説明なのかはわかりませんが、本意であれば年収の壁引き上げで少しは目的を達成したことになります。

しかしながら、日本のホワイトカラーの労働生産性が低いことは間違いなく、生産性を高めるには二つの方法しかありません。一つは時間当たりの効率を上げることであり、もう一つは単純に労働時間を増やすことです。

効率を上げる方法は、技術力の向上やその結果のAIの活用により今後ますます進化し続けるでしょう。ただし、技術力を向上させるための研究には時間が掛かります健康を害するような押し付けられた長時間労働は悪でしかありませんが、目的を持った労働は長時間でも意欲的に続けられるものです。

高市政権には、目的を明確にした労働時間規制緩和政策に取り組んでもらいたいと考えます。

 

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141.労働基準監督署の調査対応は健康経営そのものです

前回まで6回にわたり、労働基準監督署による調査の際の準備、心構え、対応方法などについて説明してきました。今回は一連のまとめで締めたいと思います。

労働基準監督署が調査を行い、企業に是正勧告や指導を行う目的は、もちろん法令違反を是正することにありますが、最大の目的は過重労働による健康障害を防止することにあります。このことは、違法な長時間労働が横行し、過労死問題が社会問題化したことをきっかけに、2015年4月に厚生労働省東京と大阪の労働局内に、「過重労働撲滅特別対策班(通称:かとく)」を設置して取り締まりを強化していることにも表れています。

「かとく」が最初に注目されたのは、某大手量販店の従業員4人に対し、36協定による上限時間79時間を超える最大109時間余りの時間外労働をさせた疑いで、企業と役員、店長2人が書類送検された事件です。この事件では、時間外労働に対する賃金不払いはなく、割増賃金は全額支払われていたにもかかわらず、更には企業や役員だけでなく店長までも書類送検された点で大きな注目を集めました。

このように、労働者の健康障害につながる過重労働に対しては、専門チームが厳しい目で見るようになったことから、一般の労働基準監督署の定期調査でも、労働時間については36協定の範囲内であっても時間をかけて調査されるわけです。

そこで、企業の対策としては、すべての労働者に対して時間外労働を1ヶ月45時間以内に抑えることができれば良いですが、人手不足問題や他社との競争力確保のため、そうもいかない場合もあります。このような状況のときには、長時間労働を可能な限り削減する一方で、労働者の健康障害を防止する方策を合わせて実施することが良いでしょう。

具体的には以下のような取り組みです。

変形労働時間制の採用による業務の繁忙時期に応じた労働

フレックタイム制勤務インターバル制の採用による勤務時間の柔軟化

年次有給休暇の取得促進による心身の疲労回復

医師や保健師による面接指導制度の拡大運用

このような取り組みを行ったうえで長時間労働を削減し、労働者の健康の保持増進に努めるという経営側の意思表示は、労働基準監督署に対してだけでなく、労働者や社会に対しても良いメッセージとなるのです。

これは健康経営そのものであり、労働基準監督署の調査対応を超える次元で、現在の企業に課せられた使命でもあります。

 

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